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日蓮大聖人『御書』解説

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2025年 07月 17日

昭和の法難 2

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1949年の巣鴨拘置所


三、拘置所より留守宅への書簡


  1) 牧 口 常 三 郎


 ○ 九月三十日附(昭和十八年)

 去(さる)二十五日から当初へ参りました。先より楽で、身体も健全。殊にひざのひい(冷)る病が、去年二十二日より不思議に値(なお)つたやうです。大へんな御利益と思ふ。

 就ては朝夕のお経は成るべくそろうて怠つてはいけま(せ)ん。必ず「毒が変じて薬となる」御法門を信じて安心してくらし(て)居ます。

 稲葉様の御内室へよろしく。十円借りたのを返して、先日の御礼を言ふて下さい。左の通りを差し入れて下さい。

 洋三(ようぞう)は戦地より無事の手紙ありましたか。

 洋子を大切にそだてなさい。御二人が心を合わせて信仰が第一。間もなく帰れませう。十日に一度手紙出せます。

 一、金二十円  一、着物ヲ合セ一枚(ワルイノデヨシ) 一、ざぶとん一枚(オヒヲカケテ) 一、御書二冊(日蓮聖人御遺文、書キ入レ・シナイモノ)

  牧 口 ク マ 殿

  同   貞 子 殿


 ○ 十月十一日附

 貞子さん、八十五円正にとゞきました。ありがたふ。これで当分安心です。食物は一円弁当を一日一度、あとは当所の分で沢山。たゞ夜が寒くて困りました。

 左の品を至急入れて下さい。金は漸(ようや)く六日、ざぶとんと、ちり紙は十日に届きました。早くてもさうですから急いで頼みます。

 まあ、三畳間、独り住居のアパート生活です。お中(腹)をいためて困りましたが治りました。あとは風ひかぬ事を注意して居ります。本も中にありますが、受付にきいてよいものを入れて下さい。渡辺力君に相談して。新しい本でないと入れません。

 老人には当分こゝで修養します。安心して下さい。一個人から見れば災難でありますが、国家から見れば必ず『毒薬変じて薬となる』といふ経文通りと信じて信仰一心にして居ます。二人心を協(あ)はせて朝夕のお経を怠らず留守をたのみます。

 取調べの山口検事様も仲々打ち解けて価値論(私の分)を理解してくれます。そのため、一週間もかゝりました。

 仲々当所の中からは面倒ですから、気をきかして、必要の冬衣などを入れて下さい。本間様か誰れかにきいて下さい。そして白金へも、戸田様へも教えて上げて下さい。

 (一) 白毛布一枚(白イカバーが入れてよいなら、かぶしたまゝ。受付できく)

 (一) 綿入一枚(木綿の分、夜着て居たもの)

 (一) 手ヌグイ一枚

 (一) 茶色の毛布一枚

 (一) モヽヒキ(アノ警視庁へ持つて行つた毛糸の分です。之は当所からウチへ下ゲラレタ筈です。もし下がらなかつたら、聞いて下さい。洗濯して)

 (一) 白のハダギ二枚

 (一) フンドシ二枚

 (一) ハンケチ(大小)二枚

 (一) ハラマキ一枚

 (一) タンゼンハイカヌさうですが、タモトにヌイ直せば、あの夜着て居たのが、冬着又は夜着として入れられさうです。之れもタモトにとぢればよひと思ひます。

 警視庁への差し入れは折々思ひちがひがあつて困りました。素直に云ふ通り実行して下さい。

 彼是れ考へずに、洋子ちゃんを大切に、お互いに冬になつたら風ひかぬ様に、風をひいたらゆたんぽで直に治すことが、クマには殊に大切です。

 あと又十日も手紙あげられません。差入れ出来るものは受け付けでよく聞いて出来るものをたのみます。

 昨日は久しぶりで入浴ができました。理髪もしました。仲々暖か味があります。たゞ独房故、人にきけないので困りましたが、少しなれました。

  牧 口 ク マ 殿

  牧 口 貞 子 殿

 

○ 一月七日附(昭和十九年)

 貞子ちゃん私も無事にこゝで七十四才の新年をむかへました。こゝでお正月の三日間はおもち下さいましたし、ごちそうもありました。

 心配しないで留守をたのみます。戦地をおもうとがまんができます。大聖人様の佐渡の御苦しみをしのぶと何でもありません。過去の業が出て来たのが経文や御書の通りです。御本尊様を一生けんめいに信じて居れば次々に色々の故障がでて来るのが皆直ります。

 さて、ハダコとハダギとを宅下げしますから代り着を早くもって来て下さい。本もネ。秋月翁はどうおつしやつたか。渡辺にきいて知らせて下さい。

 今が寒さのぜつちようです。ゆたんぽをかして下さるのでたすかります。大急ぎで差入れて下さい。ちりかみもとゞきました。ベンゴ士はどうはこ(運)んで居るか。皆さんに相談して(渡辺をして)しらせて下さい。洋三の手紙もこちらへ届けてもらへると思ふ。

 エビオスはお医者さんが許して下されたのですからそれを云ふて入れてくれ、小栗、尾原の家庭は相変らずか知らせて下さい。日付を必ず入れてね。

 母と二人で洋子を大切に、留守をたのむ。細かいありのまゝを書いて下さい。その方が戦地でもよろこびます。稲葉の御父さんの病気は直つたか返事に書いて下さい。

  牧 口 貞 子 殿

 

○ 一月十七日附

 この間の手紙三日前に来た。やはり日付がなかつた。必ず日付を名前の上に忘れない事。婦徳をけがします。きまり切つた一般の事よりは昨日は洋子がどんな遊びをした。昨日はどんな配給があつたとういふようの事が、却つて興味がある。洋三の方もさうですから、家ではあたり前の事でも戦地ではそれがなぐさみになる。これが却つて上手の手紙です。

 小栗、尾原の事を何べん聞いてやつても何の返事もない。とり越し苦労もせずにありのまゝに知らせて下さい。

 シヤツと金五十円と「歴史の進展」の本、忠臣蔵二冊が来た。あとはすべて宅下げした。単衣とハダギも下げた。御守り御本尊、母ののでも入れて下さい。これは特に御願ひして下さい。

 信仰を一心にするのが、この頃の仕事です。これさへして居れば何の不安もない。心一つのおき所で……(註・此の間二・三字が抹消されていて不明)に居ても安全です。こちらの食物だけでまことにけっこうです。本を読むこと、一度づつ戸外で運動すること、食事で、極めて単純の生活です身体も丈夫です。

 又衛君の出征は意外です。白金の御父は病気直つたのでせうね。それが返事がないと却つて心配です。戸田様へは行つたか。手紙を見たらその返事だけは必ず書いて下さい。

 留守中は御前が一番大切の役です。丈夫にして下さい。金は当分入らない。エビオスも無ければよいです。三人で朝夕の信仰を怠つてはなりません。渡辺つな子の事なども知らせて下さい。

 今が寒の頂上ですが、病気は直つて無事です。心配しないで下さい。本が一ばん楽みです。さつそく入れて下さい。洗濯して代りを入れて下さい。


 ○四月六日附

 暖くなりつばきの花が満開であらう。一日も早く帰りたいが出来ない。これは過去の因果の法則といふもので仕方がないとあきらめる。たゞ経文を以て信仰して居るので安心している。幸に達者ですから心配せずに留守をたのむ。

 三十円也正に届いた。画報、週間毎日、忠臣蔵を宅下げしたから受取て下さい。洋三の手紙も見て喜ばしい。洋子は半年見ないので此の頃の遊び方どんなに変わったか、なつかしい。

 弁護士大井氏に一度「係り判事の数馬様に面会して、私に面会することを願つて見て下さい」と、住吉君に頼んで下さい。田利氏の方はどうでしたか。疎開の場所を古河の方へ見付けるをどうしたか、知らせて下さい。是はお上から命ぜられるであらう。早くきめねばならぬ。

   牧 口 貞 子 殿

 

○ 十月十三日附

 十月五日付、洋三戦士死ノ御文、十一日ニ(羽織、袷、タビ、「註・三字不明」ヒモノ差入レト共ニ)拝見。

 ビツクリシタヨ。ガツカリモシタヨ。ソレヨリモ、御前タチ二人ハ・ドンナニカト案シタガ、共ニ、立派ノ覚悟デ、アンドシテ居ル。

 貞子ヨ。御前ガ・シツカリシテクレルノデ、誠ニ・タノモシイヨ。実ノ子ヨリハ可愛イコトガ、シミジミ感ゼラレル。非常ニ賢イ洋子ヲ立派ニ・ソダテ上ゲテ、吾等ニ孝行シテ呉レルコト、二人共、老後の唯一ツノ慰安トスル。

 手紙ハ牧口家ノ永久ノ記念ニノコル。頼ムゾヨ。

 就テハ此の際故、近親ダケニ通知シテ呉レ。北海道ノ叔母ダケハ忘レルナ。信仰上ノ障(さわ)リガアツタロウ。後デ・ワカラウ。病死ニアラズ、君国ノタメノ戦死ダケ名誉トアキラメルコト。唯ダ冥福ヲ祈ル、信仰ガ一バン大切デスヨ。二人共。

 私も元気デス。カントノ哲学ヲ精読シテ居ル、百年前、及ビ其ノ後ノ学者共ガ、望ンデ手ヲ着ケナイ「価値論」ヲ私ガ著ハシ、而カモ上ハ法華経ノ信仰ニ結ビ付ケ、下、数千人ニ実証シタノヲ見テ自分ナガラ驚イテ居ル、コレ故、三障四魔ガ粉起スルノハ当然デ経文通リデス。

 十月五日、出シタ住吉、川端氏古島様ノコト返事呉レヨ。週報ハ未ダ来ナイ。

   牧 口 ク マ 殿

   同   貞 子 殿


 (註)次いで翌月(十一月)十八日に御臨終遊ばされた。




by johsei1129 | 2025-07-17 15:05 | 富士宗学要集 | Trackback | Comments(0)


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