2021年 11月 02日
妙法蓮華経 提婆達多品第十二 漢訳 爾の時に仏、諸の菩薩、及び天人四衆に告げたまわく、 吾過去無量劫の中に於いて、法華経を求めしに、懈倦(けげん)あること無し。多劫の中に於いて、常に国王と作って、願を発して、無上菩提を求めしに、心退転せず。六波羅蜜を満足せんと欲するを為って、布施を勤行(ごんぎょう)せしに、心に象馬七珍、国城妻子、奴婢(ぬひ)僕従、頭目髄脳、身肉手足を悋惜(りんじゃく)すること無く、躯命(くみょう)をも惜まざりき。時に世の人民、寿命無量なり。法の為の故に、国位を捐捨(すて)て、政(まつりごと)を太子に委(まか)せ、鼓(つづみ)を撃って、四方に宣令して法を求めき。 誰か能く我が為に、大乗を説かん者なる。吾当に身を終わるまで、供給し走使すべし。 時に仙人有り。来って王に白して言さく、我大乗を有てり。妙法蓮華経と名づけたてまつる。若し我に違わずんば、当に為に宣説すべし。 王、仙の言を聞いて、歓喜踊躍し、即ち仙人に随って、所須を供給し、果を採り、水を汲み、薪(たきぎ)を拾い、食を設け、乃至身を以って牀座(じょうざ)と作せしに、身心倦(ものう)きこと無かりき。時に奉事すること千歳を経て、法の為の故に、精勤し給侍して、乏しき所無からしめき。 爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を説いて言わく、 我過去の劫を念うに 大法を求むるを為っての故に 世の国王と作れりと雖も 五欲の楽を貪(むさぼ)らざりき 鐘を椎(つ)いて四方に告ぐ 誰か大法を有てる者なる 若し我が為に解説せば 身当に奴僕と為るべし 時に阿私仙有り 来りて大王に白さく 我微妙の法を有てり 世間に希有なる所なり 若し能く修行せば 吾当に汝が為に説くべし 時に王仙の言を聞いて 心に大喜悦を生じ 即便(すなわ)ち仙人に随って 所須を供給し 薪及び果苽(このみ・くさのみ)を採って 時に随って恭敬して与えき 情(こころ)に妙法を存せるが故に 身心懈倦(けげん)無かりき 普く諸の衆生の為に 大法を勤求(ごんく)して亦己が身 及以五欲の楽の為にせず 故に大国の王と為って 勤求して此の法を獲(え)て 遂に成仏を得ることを致せり 今故(いまかるがゆえ)に汝が為に説く 仏、諸の比丘に告げたまわく、 爾の時の王とは、則ち我が身是れなり。時の仙人とは、今の提婆達多是れなり。提婆達多が、善知識に由るが故に、我をして六波羅蜜、慈悲喜捨、三十二相、八十種好、紫磨金色(しまこんじき)、十力、四無所畏、四摂法、十八不共、神通道力を具足せしめたり。等正覚を成じて、広く衆生を度すること、皆提婆達多が善知識に因るが故なり。 諸の四衆に告げたまわく、 提婆達多、却(さ)って後、無量劫を過ぎて、当に成仏することを得べし。号を天王如来、応供、正徧知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、仏、世尊と曰わん。世界を天道と名づけん。時に天王仏、世に住すること二十中劫、広く衆生の為に、妙法を説かん。恒河沙(ごうがしゃ)の衆生、阿羅漢果を得、無量の衆生、縁覚の心を発し、恒河沙の衆生、無上道の心を発し、無生忍を得て、不退転に住せん。時に天王仏、般涅槃の後、正法世に住すること二十中劫、全身の舎利に、七宝の塔を起てて、高さ六十由旬、縦広四十由旬ならん。諸天人民、悉く雑華、抹香、焼香、塗香、衣服、瓔珞、幢旛、宝蓋、伎楽、歌頌を以って、七宝の妙塔を礼拝し供養せん。無量の衆生、阿羅漢果を得、無数の衆生、辟支仏(びゃくしぶつ)を悟り、不可思議の衆生、菩提心を発して不退転に至らん。 仏、諸の比丘に告げたまわく、 未来世の中に、若し、善男子、善女人有って、妙法華経の提婆達多品を聞いて、浄心に信敬して、疑惑を生ぜざらん者は、地獄、餓鬼、畜生に堕ちずして、十方の仏前に生ぜん。所生の処には、常に此の経を聞かん。若し人天の中に生ずれば、勝妙の楽を受け、若し仏前に在らば、蓮華より化生(けしょう)せん。 時に下方の、多宝世尊の所従の菩薩、名を智積(ちしゃく)と曰う。多宝仏に啓さく、 当に本土に還りたもうべし、 釈迦牟尼仏、智積に告げて曰わく、 善男子、且く須臾を待て。此に菩薩有り、文殊師利と名づく。与に相見るべし。妙法を論説して、本土に還るべし。 爾の時に文殊師利、千葉の蓮華の、大いさ車輪の如くなるに坐し、倶に来れる菩薩も、亦宝蓮華に坐し、大海の裟竭羅龍宮(しゃからりゅうぐう)より、自然(じねん)に涌出(ゆじゅつ)して、虚空の中に住し、霊鷲山(りょうじゅせん)に詣でて、蓮華より下りて、仏前に至り、頭面に二世尊の足を敬札し、敬を修すること已に畢って、智積の所に往いて、共に相慰問して、却って一面に坐しぬ。 智積菩薩、文殊師利に問わく、 仁(きみ)、龍宮に往いて、化する所の衆生、其の数幾何(かず・いくばく)ぞ。 文殊師利の言わく、 其の数無量にして、称計すべからず。口の宣ぶる所に非ず。心の測る所に非ず。且く須臾を待て、自ら当に証有るべし。 所言未だ竟らざるに、無数の菩薩、宝蓮華に坐して、海より涌出し、霊鷲山に詣でて、虚空に住在せり。此の諸の菩薩は、皆是れ文殊師利の化度せる所なり。菩薩の行を具して、皆共に六波羅蜜を論説す。本声聞なりし人は、虚空の中に在って、声聞の行を説く。今皆大乗の空義を修行す。文殊師利、智積に謂って曰わく、 海に於いて教化せること、其の事此の如し。 爾の時に智積菩薩、偈を以って讃めて曰わく、 大智徳勇健にして 無量の衆を化度せり 今此の諸の大会 及び我皆已に見つ 実相の義を演暢(えんちょう)し 一乗の法を開闡(かいせん)して 広く諸の群生を導きて 速かに菩提を成ぜしむ 文殊師利の言わく、 我海中に於いて、唯常に妙法華経を宣説す。 智積菩薩、文殊師利に問いて言わく、 此の経は甚深微妙にして、諸経の中の宝、世に希有なる所なり。頗し衆生の勤加精進し、此の経を修行し、速かに仏を得る有りや不や。 文殊師利の言わく、 裟竭羅龍王の女(むすめ)有り。年始めて八歳なり。智慧利根にして、善く衆生の諸根の行業を知り、陀羅尼を得、諸仏の所説の甚深の秘蔵悉く能く受持し、深く禅定に入って、諸法を了達し、刹那の頃に於いて、菩提心を発して不退転を得たり。弁才無礙にして、衆生を慈念すること、猶、赤子の如し。功徳具足して、心に念い口に演ぶること、微妙広大なり。慈悲仁譲、志意和雅にして、能く菩提に至れり。 智積菩薩の言わく、 我釈迦如来を見たてまつるに、無量劫に於いて、難行苦行し、功を積み徳を累ねて、菩薩の道を求むること、未だ曾て止息したまわず。三千大千世界を観るに、乃至芥子の如き許りも、是れ菩薩にして、身命を捨てたもう処に非ざること有ること無し。衆生の為の故なり。然して後に、乃ち菩提の道を成ずることを得たまえり。此の女(むすめ)の須臾の頃に於いて、便ち正覚を成ずることを信ぜじ。 言論未だ訖らざる時に、龍王の女、忽ちに前に現じて、頭面に礼敬し、却って一面に住して、偈を以って讃めて曰さく、 深く罪福の相を達して 徧く十方を照らしたもう 微妙(みみょう)の浄き法身(ほっしん) 相を具せること三十二 八十種好を以って 用(も)って法身を荘厳せり 天人の戴仰(たいごう)する所 龍神も咸く恭敬す 一切衆生の類 宗奉(しゅうぶ)せざる者無し 又聞いて菩提を成ずること 唯仏のみ当に証知したもうべし 我大乗の教を闡(ひら)いて 苦の衆生を度脱せん 爾の時に舎利弗、龍女に語って言わく、 汝久しからずして、無上道を得たりと謂えり。是の事信じ難し。所以は何ん。女身は垢穢(くえ)にして、是れ法器に非ず。云何ぞ能く、無上菩提を得ん。仏道は懸曠(はるか)なり。無量劫を経て、勤苦して行を積み、具さに諸度を修して、然して後に乃ち成ず。又女人の身には、猶五障有り。一には梵天王と作ることを得ず。二には帝釈、三には魔王、四には転輪聖王、五には仏身なり。云何ぞ女身、速かに成仏することを得ん。 爾の時に龍女、一つの宝珠有り。価直三千大千世界なり。持って以って仏に上る。仏即ち之を受けたもう。龍女、智積菩薩、尊者、舎利弗に謂って言く、 我宝珠を献(たてまつ)る。世尊の納受、是の事疾しや不や。 答えて言わく、 甚だ疾し。 女(むすめ)の言わく、 汝が神力を以って、我が成仏を観よ。復、此れよりも速かならん。 当時の衆会、皆龍女の、忽然(こつねん)の間に変じて男子と成って、菩薩の行を具して、即ち南方無垢世界に往いて、宝蓮華に坐して、等正覚を成じ、三十二相、八十種好あって、普く十方の一切衆生の為に、妙法を演説するを見る。 爾の時に娑婆世界の菩薩、声聞、天龍八部、人と非人と、皆遥かに彼の龍女の成仏して、普く時の会の、人天の為に法を説くを見て、心大いに歓喜して、悉く遥かに敬礼す。無量の衆生、法を聞いて解悟し、不退転を得、無量の衆生、道の記を受くることを得たり。無垢世界六反に震動す。娑婆世界の三千の衆生、不退の地に住し、三千の衆生、菩提心を発して受記を得たり。 智積菩薩、及び舎利弗、一切の衆会、黙然として信受す。
by johsei1129
| 2021-11-02 10:01
| 法華経28品 並開結
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