【唱法華題目抄】は御書十大部の一つで、「立正安国論」と同時期に述作されております。また日興上人は本抄について『富士一跡門徒存知事』において、「一、唱題目抄一巻。此の書は最初の御書なり。文応年中常途の天台宗の義分を以て、且く爾前と法華の相違を註し給へり、仍って文言義理共に爾しかなり」と記されておられます。
『立正安国論』、【唱法華題目抄】は共に、法華経と爾前経の勝劣、特に法然の念仏破折が主題となっておりますが、立正安国論が国家諌暁を目的としているのに対し、本抄は弟子・信徒の教化を目的として、大聖人と念仏信者との十五番の問答形式で、より詳細に分かりやすく法華経と爾前経の勝劣を記されております。
更に後段では、三十二歳の立宗宣言後七年目に述作された本抄ですでに、「本尊は法華経八巻一巻一品、或は題目を書いて本尊と定む可し」と断じられ、佐渡の地で初めて図現なされた御本尊の相貌を示されておられます。
尚、本抄の概要は次の通りです。
■出筆時期:文応元年(西暦1260年) 三十九歳御作
■出筆場所:鎌倉・名越の松葉ヶ谷・草庵にて
■ご真筆: 現存しておりません。古写本:日興上人筆(神奈川県、由井氏所蔵)
日蓮大聖人は本抄の冒頭で次のように「法華経の一偈を持受持し、また他の行ずるを見てわづかに歓喜する」ことの功徳を明らかにします。
「法華経の文義を弁へずとも一部一巻四要品自我偈一句等を受持し或は自らもよみかき<中略>他の行ずるを見てわづかに随喜の心ををこし、国中に此の経の弘まれる事を悦ばん。<中略>(この人)常に人天の生をうけ、終に法華経を心得るものと成つて十方浄土にも往生し又此の土に於ても即身成仏する事有るべきや委細に之を聞かん」
「答えて云く、させる文義を弁えたる身にはあらざれども法華経・涅槃経・並に天台妙楽の釈の心をもて推し量るにかりそめにも、法華経を信じて聊も謗を生ぜざらん人は余の悪にひかれて悪道に堕つべしとはおぼえず」と。