2016年 05月 17日
【一念三千理事】 ■出筆時期:正嘉二年(1258年) 三十七歳御作 ■出筆場所:駿河国・岩本実相寺にてと思われます。 ■出筆の経緯:大聖人は正嘉二年二月、駿河国・岩本実相寺に入り大蔵経(釈尊の一切経)を読まれ二年後に立正安国論として結実し北条時頼(最明寺入道)に献じ国家諌暁を果たします。また合わせて法華経の法門を初心の弟子・信徒の教化のため数多く述作されておられます。本書もその一つで、十二因縁、一念三千理事(百界千如三千世間)、三身(法・報・応)の事についてわかりやすく講説されておられます。 ■ご真筆:現存しておりません。 【一念三千理事 本文】 十二因縁図、 問う、流転の十二因縁とは何等ぞや。 答う、一には無明。倶舎(くしゃ)に云く「宿惑の位は無明なり」文。無明とは昔愛欲の煩悩起こりしを云うなり。男は父に瞋(いかり)を成して母に愛を起す、女は母に瞋を成して父に愛を起こすなり。倶舎の第九に見えたり。 二には行。倶舎に云く「宿の諸業を行と名く」と文。昔の造業を行とは云うなり。業に二有り。一には牽引(けんいん)の業なり。我等が正く生を受く可き業を云うなり。二には円満の業なり。余の一切の造業なり。所謂足を折り・手を切る先業を云うなり。是は円満の業なり。 三には識。倶舎に云く「識とは正く生を結する蘊(おん)なり」文。正く母の腹の中に入る時の五蘊なり。五蘊とは色受想行識なり、亦五陰とも云うなり。 四には名色。倶舎に云く「六処の前は名色なり」文。 五には六処。倶舎に云く「眼等の根を生ずるより三和の前は六処なり」文。六処とは眼耳鼻舌身意の六根出来するを云うなり。 六には触。倶舎に云く「三受の因の異なるに於て・未だ了知せざるを触と名く」文。火は熱しとも知らず、水は寒しとも知らず、刀は人を切る物とも知らざる時なり。 七には受。倶舎に云く「婬愛の前に在るは受なり」文。寒熱を知つて未だ婬欲を発さざる時なり。 八には愛。倶舎に云く「資具と婬とを貪るは愛なり」文。女人を愛して婬欲等を発すを云うなり。 九には取。倶舎に云く「諸の境界を得んが為に徧(あまね)く馳求(ちきゅう)するを取と名く」文。今世に有る時、世間を営みて他人の物を貪り取る時を云うなり。 十には有。倶舎に云く「有は謂く、正しく能く当有の果を牽(ひ)く業を造る」文。未来又此くの如く生を受く可き業を造るを有とは云うなり。 十一には生。倶舎に云く「当の有を結するを生と名く」文。未来に正く生を受けて母の腹に入る時を云うなり。 十二には老死、倶舎に云く「当の受に至るまでは老死なり」文。生老死を受くるを老死憂悲苦悩とは云うなり。 問う、十二因縁を三世両重に分別する方如何。 答う、無明と行とは過去の二因なり。 識と名色と六入と触と受とは現在の五果なり。 愛と取と有とは現在の三因なり。 生と老死とは未来の両果なり。 私の略頌(りゃくじゅ)に云く、過去の二因[無明・行]現在の五果[識・名色・六入・触・受]現在の三因[愛・取・有]未来の両果[生・老死]と。 問う、十二因縁流転の次第如何。 答う、無明は行に縁たり、行は識に縁たり、識は名色に縁たり、名色は六入に縁たり、六入は触に縁たり、触は受に縁たり、受は愛に縁たり、愛は取に縁たり、取は有に縁たり、有は生に縁たり、生は老死憂悲苦悩に縁たり。是れ其の生死海に流転する方なり。此くの如くして凡夫とは成るなり。 問う、還滅(げんめつ)の十二因縁の様如何。 答う、無明滅すれば則ち行滅す、行滅すれば則ち識滅す、識滅すれば則ち名色滅す、名色滅すれば則ち六入滅す、六入滅すれば則ち触滅す、触滅すれば則ち受滅す、受滅すれば則ち愛滅す、愛滅すれば則ち取滅す、取滅すれば則ち有滅す、有滅すれば則ち生滅す、生滅すれば則ち老死憂悲苦悩滅す。是れ其の還滅(げんめつ)の様なり。仏は還つて煩悩を失つて行く方なり。私に云く、中有の人には十二因縁具(つぶさ)に之無し。又天上にも具には之無く、又無色界にも具には之無し。 一念三千理事 十如是とは如是相は身なり[玄二に云く、相以て外に拠る。覧(み)て別つ可し文。籤六に云く、相は唯色に在り]文。 如是性は心なり[玄二に云く、性以て内に拠る自分改めず文。籤六に云く、性は唯心に在り]文。 如是体は身と心となり[玄二に云く、主質を名けて体となす]文。 如是力は身と心となり[止に云く、力は堪忍を用となす]文。 如是作は身と心となり[止に云く、建立を作と名く]文。 如是因は心なり[止に云く、因とは果を招くを因と為す。亦名けて業となす]文。 如是縁[止に云く、縁は縁業を助くるに由る]文。 如是果[止に云く、果は剋獲(こっかく)を果と為す]文。 如是報[止に云く、報は酬因を報と曰う]文。 如是本末究竟等[玄二に云く、初めの相を本と為し後ちの報を末と為す]文。 三種世間とは五陰世間[止に云く、十種陰果不同を以ての故に五陰世間と名くるなり]文。 衆生世間[止に云く、十界の衆生寧ろ異らざるを得る故に衆生世間と名くるなり]文。 国土世間[止に云く、十種の所居(しょご)通じて国土世間と称す]文。 五陰とは新訳には五蘊(おん)と云うなり。陰とは聚集(じゅしゅう)の義なり。一に色陰五色是なり、二に受陰領納是なり、三に相陰。倶舎に云く、想は像を取るを体と為すと文。四に行陰(ぎょうおん)・造作是行なり。五に識陰・了別是れ識なり。止の五に婆沙(ばしゃ)を引いて云く「識先ず了別し・次に受は領納し・相は相貌(そうぼう)を取り・行は違従を起し・色は行に由つて感ず」と。 百界千如三千世間の事、 十界互具即百界と成るなり。 地獄[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・地下赤鉄]。 餓鬼[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・地下]。 畜生[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・水陸空]。 修羅[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・海畔底]。 人[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・須弥四州]。 天[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・宮殿]。 声聞[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・同居土]。 縁覚[衆生世間十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・同居土]。 菩薩[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是同居・方便実報]。 仏[衆生世間・十如是]五陰世間[十如是]国土世間[十如是・寂光土]。 止観の五に云く「心・縁と合すれば則ち三種世間・三千の性相皆心より起る」文。 弘の五に云く「故に止観に正しく観法を明すに至つて並びに三千を以て指南と為す。乃ち是れ終窮究竟(しゅうぐ・くきょう)の極説なり。故に序の中に説己心中(せつこしんちゅう)所行の法門と云う。良(まこと)に以(ゆえ)有るなり。請う、尋ねて読まん者心に異縁無かれ」文。 又云く「妙境の一念三千を明さずんば如何ぞ一に一切を摂ることを識る可けん。三千は一念の無明を出でず、是の故に唯苦因苦果のみ有り」文、 又云く「一切の諸業十界・百界千如・三千世間を出でざるなり」文。 籤の二に云く「仮は即ち衆生、実は即ち五陰及び国土即ち三世間なり。千の法は皆三なり。故に三千有り」文。 弘の五に云く「一念の心に於て十界に約せざれば事を収むること徧(あまね)からず、三諦に約せざれば理を摂ること周(あまね)からず、十如を語らざれば因果備わらず、三世間無(なく)んば依正(えしょう)尽きず」文。 記の一に云く「若(もし)三千に非ざれば摂ること徧からず、若し円心に非ざれば三千を摂せず」文。 玄の二に云く「但衆生法は太だ広く仏法は太だ高し。初学に於て難(かたし)と為し、心は則ち易しと為す」文。 弘の五に云く「初に華厳を引くことは心は工(たくみ)なる画師の如く種種の五陰を造る・一切世界の中に法として造らざること無し。心の如く仏も亦爾なり、仏の如く衆生も然なり。心・仏及び衆生是の三差別無し。若し人三世一切の仏を求め知らんと欲せば当に是くの如く観ずべし、心は諸の如来を造る」と。 金錍論(こんぺいろん)に云く「実相は必ず諸法、諸法は必ず十如、十如は必ず十界、十界は必ず身土なり」 三身の事 先ず法身とは大師大経を引いて「一切の世諦は若し如来に於ては即ち是第一義諦なり。衆生顛倒(てんどう)して仏法に非ずと謂えり」と釈せり。然れば則ち自他・依正・魔界・仏界・染浄・因果は異なれども悉く皆諸仏の法身に背く事に非ざれば、善星比丘が不信なりしも、楞伽(りょうが)王の信心に同じく、般若蜜外道が意の邪見なりしも須達長者が正見に異らず。即ち知んぬ、此の法身の本は衆生の当体なり。十方諸仏の行願は実に法身を証するなり。 次に報身とは大師の云く「法如如の智、如如真実の道に乗じ来たつて妙覚を成ず。智・如(にょ)の理に称(かな)う。理に従つて如と名け、智に従つて来と名く、即ち報身如来なり。盧舎那(るしゃな)と名け此には浄満と翻ず」と釈せり。此れは如如法性の智・如如真実の道に乗じて妙覚究竟の理智・法界と冥合したる時・理を如と名く。智は来(らい)なり。
by johsei1129
| 2016-05-17 19:55
| 弟子・信徒その他への消息
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