報恩抄文段 上二十

　
第六段　真言伝来及び慈覚・智証を責む

一　真言宗と申す等文。

　此の下は第三に末法日本の蓮師(れんし)の弘(ぐ)通(つう)、怨嫉(おんしつ)、値難(ちなん)を明かす、亦二と為す。初めに前代流布(るふ)の真言伝来を明かし、次に「抑(そもそ)も法華経」の下は正(まさ)しく蓮祖の弘通、値難を明かす。

　初めの文、亦二と為す。初めに伝教の伝来を明かして以(もっ)て正義(しょうぎ)を示し、次に三師の伝弘(でんぐ)を明かして以て邪謬(じゃびゅう)を顕すなり。

　問う、且(しばら)く文相(もんそう)に准(じゅん)ずるに「日本国」の下は仏法最初伝来、及び六宗の伝来、並びに天台(てんだい)・真言二宗の伝来の相を明かす。故に此の下は仍(なお)日本伝来の中の細科(さいか)たるべし。今何ぞ大科(だいか)と為して末法弘通の中の前代流布(るふ)等と云うや。

　答う、凡(およ)そ「況滅(きょうめつ)度後(どご)」の文を釈するに、広く三時に約し、三国に寄(よ)せて釈す。既(すで)に三国に寄せて釈するが故に、文の相(あい)連(つら)なれるは且(しばら)く所(しょ)問(もん)の如し。

而(しか)るに今は大旨に約して以て科段(かだん)を分(わか)ち、学者をして昭(しょう)然(ねん)として文の起尽(きじん)を見るべからしむ。是の故に然(しか)るのみ。謂(いわ)く「況滅度後」の文を釈するに、初めに正法の四依(しえ)に約して之を釈し、次に像法の三師に約して之を釈す。既に正像(しょうぞう)に約するの相、此の文の次上(つぎかみ)に至(いた)って即ち之(これ)を釈し畢(おわ)んぬ。故に知んぬ、此れより下(しも)の文は応(まさ)に末法に属すべし。況(いわん)や復(また)天台(てんだい)・妙(みょう)楽(らく)・伝教(でんぎょう)の中の文各(おのおの)初めに前代流布(るふ)の迷(めい)乱(らん)を明かす。像法尚(なお)爾(しか)なり、況や末法の中に於て何ぞ之を欠(か)くべけんや。故に知んぬ、此の下は前代流布(るふ)の真言を明かすなり。

　問う、若(も)し爾(しか)らば何ぞ伝教の伝来を挙(あ)ぐるや。

　答う、文は三国に寄せて釈するが故に、但(ただ)伝教のみに非(あら)ず、尚無畏(むい)・玄昉(げんぼう)等の伝来を挙ぐるなり。而(しか)も其の意は正(まさ)しく正(しょう)に対して邪を顕(あらわ)す為なり。故に明らかに二宗の勝劣(しょうれつ)を判ずる、即ち此の意なり。

　問う、若(も)し前代流布の迷乱を明かさば、応(まさ)に亦(また)禅・念仏等をも明かすべし。何ぞ唯(ただ)真言のみを挙(あ)ぐるや。

　答う、真言は是れ蓮祖(れんそ)所破(しょは)の正意(しょうい)なるが故なり。

　清澄抄三十三・十九に云く「真言宗は法華経を失う宗なり、是(これ)は大事なり先(ま)ず序分に禅宗と念仏宗の僻見(びゃっけん)を責めて見んと思ふ」と云云。

　初めに伝教の伝来を明かす中に亦三と為(な)す。初めに前代の伝来を明かし、次に「此(これ)等(ら)を伝教」の下は正(まさ)しく明かし、三に「止観(しかん)」の下は二宗の勝劣を明かすなり。初めに前代の伝来を明かすに自(おのずか)ら三と為す。

　　初めの文に云う「日本人王・第四十四代」とは、元正天皇の養老(ようろう)年中に、無畏(むい)、大日経を渡すに時機(じき)未熟(みじゅく)の故に、和の久米寺に蔵して、還(かえ)る後(のち)の七十年に空海(くうかい)此の経を得(え)たり等云云。釈書一・十一、養老類雑五・三十八。


　つづく

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