【鼠いるか事】
■出筆時期:建治三年(1277) 五十六歳御作。
■出筆場所:鎌倉 草庵にて。
■出筆の経緯:本書は某信徒から「安房国で十尋(約36M)程の鼠入鹿(ねずみいるか)が捕れ、鎌倉に送られ家々で油をしぼったが、その匂いはとても臭かった」と伝えられたことを記され、それへの返書となっております。
この事は、身延に住む大聖人に各地の信徒が、日頃世間の出来事を逐次伝えていたことを示しており、大聖人は身延にいながら鎌倉を中心とする当時の世情を十分把握していたと思われます。
■ご真筆:京都市立本寺所蔵。
[真筆本文:下記緑字箇所]
[鼠いるか事 本文]
已前の御文・御返事申し候ひしか。
鵞目一結ひ、三年の古酒一筒給び了んぬ。
御文に云はく、安房国にねずみいるか・とかや申し候大魚 或は十七・八尋或は二十尋云云、乃至彼の大魚を鎌倉に・乃至家々にあぶらにしぼり候・香たえ候べきやう候はず、くさく等云云。
扶桑記に云く「出羽国に四月八日、河水泥水にして死魚浮かび、山・擁塞(ようそく)して流れず。
両の大蛇有り・長さ各十丈許り、相連(つら)なり流出して海江に入る。小蛇の随ふは其の数を知らず。
河に依って苗稼(みょうけ)流れ損ずるもの多し。或は濁水に没し、草木死朽(しきゅう)して而も生せず〇但弘仁年中〇乃至兵役之を火(や)く。又塚墓骸骨其の山水を汚す」等云云。
此の外(ほか)内典に伝ふるに、臭気に依って悪鬼・国に入って聚(あつ)まる。
(これ以降の文は残されておりません)