撰時抄愚記 上十五 謗法の行人は「一切世間の仏種を断ずる」の罪人なり、是れ卑賎なり

一　例せば阿私陀(あしだ)仙人等。

此の下は例を引くなり。統記二・七紙、往(ゆ)いて見よ。

一　道心あらん人人等文。

此の下は第四、結勧なり。総じて大集経の五箇の五百所引(しょいん)已下の諸(もろもろ)の義を指して「此を見き(聞)きて」等と云うなり云云。

一　正像二千年の大王等とは。

此の下は尊卑相望(そうもう)して、反転して尊卑を顕す。是れ則(すなわ)ち「法妙なるが故に人尊し」の故なり。中に於て、初めに異時相望す。謂(いわ)く、正像二時の大王は、縦(たと)い如説修行するとも仍(なお)是(こ)れ権迹の行者なり。故に却(かえ)って下位なり。猶(なお)獼猴(みこう)の如し。若(も)し末法今時の民は、説の如く修行すれば即ち是れ本化の菩薩なり。故に却って上位なり。譬(たと)えば帝釈(たいしゃく)の如し。故に正像二千年の最極(さいごく)上位の大王よりも、末法今時の最極下位の民(たみ)にてこそ有るべけれ等云云。

問う、末法今時の我等、何ぞ是れ本化(ぽんげ)の菩薩ならんや。

答う、凡(およ)そ本化の菩薩は久遠五百塵点劫より已来(このかた)、余事を雑(まじ)えず、一向(いっこう)に本門寿量の肝心(かんじん)を行ず。下山抄の如し。我等も亦(また)爾(しか)なり。信念受持の初めより余事を雑えず一向に本門寿量の肝心を行ず、豈(あに)本化の菩薩に非ずや。上行等は久遠の本化にして我等は今日(こんにち)の本化なり。我等即ち上行等と謂(い)うには非ず。例せば外典に「之を前(さき)に行うは古(いにしえ)の尭(ぎょう)・舜(しゅん)なり。之を後に行うは即ち今の尭・舜なり」と云うが如し云云。况(いわん)や復(また)久遠は今に在り、今は即ち是れ久遠なり云云。

次に「彼(か)の天台の座主(ざす)」の下は同時相望す。謂(いわ)く、倶(とも)に末法に在りと雖も、爾前・迹門の謗法の行人(ぎょうにん)は既(すで)に是れ則ち「一切世間の仏種を断ずる」の罪人なり。故に却って是れ卑賎(ひせん)なり。若し本門寿量の正法の行者は正(まさ)に是れ「是の人仏道に於て、決定(けつじょう)して疑(うたが)い有ること無けん」の善人なり。故に最も是れ尊貴なり。所以(ゆえ)に天台・真言の最極高貴の智人・碩(せき)徳(とく)よりも、本門寿量の最極下賎の愚人・白癩(びゃくらい)の人とはなるべしと云云。記四本四十一に云く「末代安(いずく)んぞ法は妙にして人は麁(そ)なるべけんや」と云云。

一　梁(りょう)の武帝発願(ほつがん)して云く等文。

止の二・五十三に云く「経に云く、寧(むし)ろ提婆と作(な)って」等云云。弘(ぐ)の二末八十五に云く「経に云く、寧ろ作ってとは、梁の武帝発願(ほつがん)して云く」等云云。証真料簡(りょうけん)して云く「願文を引いて経説を助成す」と云云。

統記三十八初に云く「天監(てんかん)二年四月八日、梁の武、重雲殿に於て親しく文を製し、群臣二万人を率(ひき)い、菩提心を発(おこ)し、永(なが)く道教を棄(す)てしむ。其の文に云く、願わくは来生出家して広く教経を弘め、含(がん)識(じき)を化度して同じく仏道を成ぜしめん。寧(むし)ろ正法の中に在って長く悪道に淪(しず)むとも、老子の教に依(よ)って暫(しばら)くも天に生ずることを得んとは楽(ねが)わじ」等云云。願文の意、往(ゆ)いて経文に同じ。故に妙楽は願文を引き、以て経文を助成するなり。解釈の妙術、豈(あに)凡の及ぶ所ならんや。今は即ち弘決(ぐけつ)の意に同じ云云。

一　欝頭(うず)藍(らん)弗(ほつ)等文。

大論十七・三十四。西域(せいいき)九初に委悉(いしつ)なり。往いて見よ。


　　　つづく

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