撰時抄愚記 上八

　　　七月十六日

　　　第三段　機教相違の難を会(え)す

一　「問うて云く、機」等。

此の下は機教相違の難を会(え)するなり。

一　人路(みち)をつくる等。

愚人に大法を授くる所以(ゆえん)は、彼をして信を生じ仏果に至らしめんが為なり。然(しか)るに却(かえ)って誹謗(ひぼう)を作(な)して悪道に堕(だ)せんは、是(こ)れ彼(か)の者の過(とが)にして説く者の罪に非らざるなり。記の五末五十八に云く「仏の元意(がんい)によれば、唯(ただ)福を生ぜんが為なり。是れ迷者の過(あやまち)にして路(みち)の咎(とが)に非ざるなり」文。

次に「良薬(ろうやく)」とは、寿量品の肝要(かんよう)・名体宗用教の南無妙法蓮華経なり。「病(愚)人」とは日本国中の三毒強(ごう)盛(じょう)の悪人等なり。「良医(ろうい)」とは蓮(れん)祖(そ)大聖人なり。又書註の二・九。

一　尋(たず)ねて云く法華経等。

此の下は経説相違の難を会(え)するなり。

一　天台云く、時に適(かな)うのみと文。

文の八・六十六の文なり。「章安(しょうあん)云く」とは単疏の四・三十三の文なり。

一　或(あ)る時は等文。

四箇(か)の「或る時」は分(わか)ちて二段と為(な)す。初めの二段は未謗(みぼう)・已謗(いぼう)の機に配す。是れ則(すなわ)ち未謗は摂受(しょうじゅ)、已謗は折伏の義にして「時に適(かな)うのみ」の文の意なり。次の二段は「釈迦は小を以て而して之(これ)を将護(しょうご)し、不軽(ふきょう)は大を以て而して之を強(ごう)毒(どく)す」の意なり。

一　初成道(しょじょうどう)の時等文。

此の下は上来の「寂滅(じゃくめつ)道場(どうじょう)」已下の意を結するなり。

一　法(ほう)慧(え)・功徳(くどく)林(りん)等文。

開目抄上四十五に云く「総じて華厳(けごん)会座(えざ)の大菩薩・天竜(てんりゅう)等は、釈尊以前に不思議解脱(げだつ)に住せる大菩薩なり。(乃至) 此等の大菩薩は、人目には仏の御弟子(みでし)かとは見ゆれども、仏の御師とも・いゐぬべし、(乃至) 華厳(けごん)経に此等の大菩薩をかず(数)へて善知識ととかれしは是れなり、善知識と申すは一向(いっこう)・師にもあらず、一向・弟子にもあらずある事なり」文。

実に此(こ)の衆(しゅ)の為には法華経を説くべき事なり。

一　鹿野(ろくや)苑(おん)等文。

是れ阿含(あごん)経の説処(せっしょ)なり。名義(みょうぎ)の因縁は、大論十六・十七の如し。

一　倶(く)隣(りん)等の五人文。

五人の最初得道の因縁(いんねん)は文の第一・四十一の如し云云。

一　八万の諸天(しょてん)文。　

初転(しょてん)法輪(ぽうりん)の得道の因縁は、大論十四初紙の如し。「五人」及び「八万」は倶(とも)に宿世の誓願あり。故に法華を説くべき事なり。()又(また)、顕仏未来記に云云。

一　観仏(かんぶつ)三昧(さんまい)経(きょう)をとかせ給い文。

是れ成道第十二年の説なり。然(しか)りと雖も、経文の相、正(まさ)に方(ほう)等(どう)の摂(しょう)なり云云。先ず仏、成道(じょうどう)の第六年に優陀(うだ)邪(や)を使として仏を王宮に迎え、群臣万民迎え出ずること四十里、仏、王宮に入り法を説き度(ど)生(しょう)す。父王、一族五百人をして出家せしめ、仏の化(け)儀(ぎ)を荘厳(しょうごん)す。其の後(のち)六年を経(へ)て成道十二年に当り、再び迦毘(かぴ)羅(ら)国に還(かえ)って、父王の為に観仏(かんぶつ)三昧(さんまい)経を説く云云。統紀三・二十七、三十。

一　摩耶(まや)経(きょう)をとかせ給う文。

是れ成道第八年の説なり。仏祖(ぶつそ)通載(つうさい)三・四紙に云云。是れ亦(また)其の説相、方(ほう)等(どう)の摂(しょう)なり。具(つぶさ)には啓蒙(けいもう)の如し。故に「方等大会(だいえ)の儀式」と云うなり。既(すで)に提謂(だいい)を以て尚(なお)方等に摂す。年限に拘(かかわ)らんや。（注：提謂＝提謂経のこと。五戒の功徳を説く）

御書十八・七に云く「昔仏、摩耶の恩を報じ給わんが為に・忉(とう)利天(りてん)へ四月十五日に昇らせ給いて、七月十五日の夜還(かえ)らせ給う」（新定御書）取意。故に「九十日が間」等と云うなり。又貧女が一(いっ)燈(とう)を挙(あ)げ已(おわ)って云く「是れを思うに、たのしくして若干(そこばく)の財(たから)を布(ふ)施(せ)すとも信心弱くば仏に成らんこと叶い難し。縦(たと)い貧なりとも信心強く志深からんは仏に成らんこと疑(うたが)いあるべからず」（新定御書）等云云

　　　　　　　　　　　　　　　　　
つづく

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