【富木尼御前御返事】
■出筆時期:文永十二年(1275年)一月 五十四歳御作
■出筆場所:身延山中の草庵にて。
■出筆の経緯:本抄は短い消息ですが、富木尼御前と富木常忍夫妻のそれぞれから銭一貫と、さらに帷(かたびら:裏地がない単衣の上着)を供養されたことを簡潔に記されておられます。夫妻それぞれから銭を供養される例は極めて異例で、通常では夫妻合わせて銭二貫と記すところです。本書を記した翌年の建治二年三月下旬には富木常忍の母が亡くなり、またその義母を熱心に看病していた富木尼も病気がちでありました。恐らく本書で記された銭の供養は、富木常忍の母と富木尼の、その当時の健康回復を祈念しての供養ではないかと推察されます。
尚、富木常忍は建治二年三月二十七日、亡き母の遺骨を首に下げ、大聖人に追善供養をしてもらうため身延の草庵に見参します。
また大聖人はその時、富木尼の義母への熱心な看護と、富木尼自身の体調も良くないことを聞き、励ますために消息を認めておられます。
その時の経緯は
[富木尼御前御書]と
[忘持経事]を参照して下さい。
■ご真筆:東京都・池上本門寺所蔵。

[富木尼御前御返事 本文]
尼こぜん鵞目(がもく)一貫
富木殿青鳧(せいふ)一貫
給候了
又帷(かたびら)一領
日 蓮 花押