2019年 09月 15日
【十章抄】 ■出筆時期:文永八年(西暦1271年)五月 五十歳 御作。 ■出筆場所:鎌倉 館にて。 ■出筆の経緯:本抄は、比叡山に遊学し天台学を学んでいた三位房日行に送られた書です。本抄で大聖人は「真実に円の行に順じて常に口ずさみにすべき事は南無妙法蓮華経なり、心に存すべき事は一念三千の観法なり、これは智者の行解なり、日本国の在家の者には但一向に南無妙法蓮華経ととなへさすべし」と記し、南無妙法蓮華経と唱えることが末法の修行であることを強く指導されておられます。 文末では「止観よみあげさせ給はばすみやかに御わたり候へ」と記し、天台の摩訶止観を修業したら速やかに大聖人の元に見参するよう促されております。 尚大聖人はこの書を記した四ヶ月後に「竜の口の法難」に遭われ、この書を著した時点では、未だ御本尊を御図現されておられません。 また日蓮一期の弘法を付属された日興上人は「日興誡置文」 で、天台の修学について「義道の落居(らっこ)無くして天台の学文すべからざること」と弟子・信徒一同に大聖人の法門を第一にして習得するよう戒められておられます。 ■ご真筆:中山法華経寺 所蔵。 ![]() [十章抄 本文] 華厳宗と申す宗は華厳経の円と法華経の円とは一なり、而れども法華経の円は華厳の円の枝末と云云。法相・三論も又又かくのごとし。天台宗・彼の義に同ぜば別宗と立てなにかせん。例せば法華・涅槃は一つ円なり、先後に依つて涅槃尚をと(劣)るとさだむ。爾前の円・法華の円を一とならば先後によりて法華豈劣らざらんや。詮ずるところ・この邪義のをこり「此の妙・彼の妙、円実異ならず。円頓の義・斉(ひと)し。前の三を麤(そ)と為す」等の釈にばかされて起る義なり。 止観と申すも円頓止観の証文には華厳経の文をひきて候ぞ。又二の巻の四修三昧(さんまい)は多分は念仏と見へて候なり。源濁れば流清からずと申して、爾前の円と法華経の円と一つと申す者が止観を人によませ候えば、但念仏者のごとくにて候なり。 但止観は迹門(しゃくもん)より出(いで)たり・本門より出たり・本迹(ほんじゃく)に亘(わた)ると申す三つの義・いにしえより・これあり。これは且くこれををく。「故に知んぬ。一部の文共に円乗開権の妙観を成す」と申して止観一部は法華経の開会(かいえ)の上に建立せる文なり。爾前の経経をひき乃至外典を用いて候も、爾前・外典の心にはあらず。文をばかれども義をばけづりすてたるなり。「境は昔に寄ると雖も智は必ず円に依る」と申して文殊問(もんじゅもん)・方等(ほうどう)・請観音(しょうかんのん)等の諸経を引いて四種を立つれども・心は必ず法華経なり。「諸文を散引して一代の文体を該(かぬ)れども・正意は唯二経に帰す」と申すこれなり。
止観に十章あり大意・釈名・体相・摂法(せっぽう)・偏円・方便・正観・果報・起教・旨帰(しき)なり。「前六重は修多羅(しゅだら)に依る」と申して大意より方便までの六重は先(さき)四巻に限る。これは妙解、迹門の心をのべたり。「今妙解に依つて以て正行を立つ」と申すは、第七の正観・十境・十乗の観法本門の心なり。一念三千此れよりはじまる。一念三千と申す事は迹門にすらなを許されず。何に況や爾前に分・た(絶)へたる事なり。 一念三千の出処は略開三の十如実相なれども義分は本門に限る。爾前は迹門の依義判文(えぎはんもん)・迹門は本門の依義判文なり。但真実の依文判義(えもんはんぎ)は本門に限るべし。されば円の行まちまちなり。沙(いさご)をかずへ大海をみるなを円の行なり。何に況や爾前の経をよみ・弥陀等の諸仏の名号を唱うるをや。 但これらは時時(よりより)の行なるべし、真実に円の行に順じて常に口ずさみにすべき事は南無妙法蓮華経なり、心に存すべき事は一念三千の観法なり。これは智者の行解なり。日本国の在家の者には但一向に南無妙法蓮華経ととなへさすべし。名は必ず体にいたる徳あり。法華経に十七種の名ありこれ通名なり。別名は三世の諸仏、皆南無妙法蓮華経とつけさせ給いしなり。阿弥陀・釈迦等の諸仏も因位の時は必ず止観なりき、口ずさみは必ず南無妙法蓮華経なり。此等をしらざる天台・真言等の念仏者・口ずさみには一向に南無阿弥陀仏と申すあひだ、在家の者は一向に念うやう・天台・真言等は念仏にてありけり。又善導・法然が一門はすなわち天台真言の人人も実に自宗が叶いがたければ念仏を申すなり。わづらわしく・かれを学せんよりは法華経をよまんよりは一向に念仏を申して浄土にして法華経をもさとるべしと申す。此の義・日本国に充満せし故に、天台・真言の学者・在家の人人にすてられて・六十余州の山寺はう(失)せはてぬるなり。 九十六種の外道は仏慧比丘(ぶってびく)の威儀よりをこり。日本国の謗法(ほうぼう)は爾前の円と法華の円と一つという義の盛(さかん)なりしより・これはじまれり。あわれなるかなや、外道は常楽我浄(じょうらくがじょう)と立てしかば、仏・世にいでまさせ給いては苦・空・無常・無我ととかせ給いき。二乗は空観に著(じゃく)して大乗にすすまざりしかば仏誡(いまし)めて云く、五逆は仏のたね・塵労(じんろう)の疇(たぐい)は如来の種(たね)・二乗の善法は永不成(ようふじょう)と嫌わせ給いき。常楽我浄の義こそ外道は・あしかりしかども名はよかりしぞかし。而れども仏(ほとけ)名をい(忌)み給いき。悪だに仏の種となる、ましてぜん(善)はとこそ・をぼうれども、仏二乗に向いては悪をば許して善をば・いましめ給いき。 当世の念仏は法華経を国に失う念仏なり。設いぜん(善)たりとも義分あたれりと・いうとも先ず名をいむべし。其の故は仏法は国に随うべし。天竺には一向小乗・一向大乗・大小兼学の国あり・わかれたり、震旦亦復是くの如し。日本国は一向大乗の国・大乗の中の一乗の国なり。華厳・法相・三論等の諸大乗すら猶相応せず。何に況や小乗の三宗をや。 而るに当世にはやる念仏宗と禅宗とは源(もと)方等部より事をこれり、法相・三論・華厳の見(けん)を出ずべからず。南無阿弥陀仏は爾前(にぜん)にかぎる。法華経にをいては往生の行にあらず、開会の後・仏因となるべし。南無妙法蓮華経は四十余年にわたらず、但法華八箇年にかぎる。南無阿弥陀仏に開会せられず、法華経は能開・念仏は所開なり。法華経の行者は一期南無阿弥陀仏と申さずとも南無阿弥陀仏並びに十方の諸仏の功徳を備えたり。譬えば如意宝珠の如し。金銀等の財(たから)を備えたり。念仏は一期申すとも法華経の功徳をぐ(具)すべからず。譬へば金銀等の如意宝珠をかねざるがごとし。譬へば三千大千世界に積みたる金銀等の財も一つの如意宝珠をばか(替)うべからず。設い開会をさとれる念仏なりとも猶体内の権なり、体内の実に及ばず。何に況や当世に開会を心得たる智者も少なくこそをはすらめ、設いさる人ありとも弟子・眷属(けんぞく)・所従なんどは・いかんがあるべかるらん。愚者は智者の念仏を申し給うをみては念仏者とぞ見候らん。法華経の行者とはよも候はじ。 又南無妙法蓮華経と申す人をば・いかなる愚者も法華経の行者とぞ申し候はんずらん。当世に父母を殺す人よりも・謀反ををこす人よりも、天台・真言の学者と云はれて善公が礼讃をうたひ・然公が念仏をさえづる人人は・をそろしく候なり。この文(ふみ)を止観よみあげさせ給いて後、ふみのざ(座)の人にひろめてわたらせ給うべし。止観よみあげさせ給はば・すみやかに御わたり候へ。 沙汰(さた)の事は本より日蓮が道理だにもつよくば事切れん事かたしと存じて候いしが、人ごとに問注は法門にはにず・いみじうしたりと申し候なるときに事切るべしともをぼへ候はず。少弼(しょうひつ)殿より平三郎左衛門のもとに・わたりて候とぞうけ給わり候。この事のび候わば、問注はよきと御心得候へ。又いつにても・よも切れぬ事は候はじ。又切れずば日蓮が道理とこそ人人は・をもい候はんずらめ、くるしく候はず候。当時はことに天台・真言等の人人の多く来て候なり。事多き故に留め候い了んぬ。
by johsei1129
| 2019-09-15 17:45
| 弟子・信徒その他への消息
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