2019年 11月 13日
【曾谷殿御返事(輪陀王御書)】 ■出筆時期:弘安二年(西暦1279年) 弘安二年己卯(つちのとう)八月十七日 五十八歳 御作。 ■出筆場所:身延山中 草庵にて。 ■出筆の経緯:本抄は、曾谷入道が焼米二俵をご供養されたことへの返書となっております。大聖人は本抄で、法華経と法華経の行者と俗信徒である檀那の関係を「法華経は燈(ともしび)の如く行者は油の如し、檀那は油の如く行者は燈の如し」と記し、「三千大千世界(宇宙)にても買うことができない程大切な命」を継ぐ米を供養した曾谷入道の志を、たたえておられます。 さらに「法華経は何故ぞ諸経に勝れて一切衆生の為に用いる事なるぞ」と問いかけ「譬えば草木は大地を母とし、虚空を父とし、甘雨を食とし、風を魂とし、日月をめのと(乳母)として生長し、華さき菓なるが如く、一切衆生は実相を大地とし、無相を虚空とし、一乗を甘雨とし、已今当第一の言を大風とし、定慧力荘厳を日月として妙覚の功徳を生長し、大慈大悲の華さかせ、安楽仏果の菓(このみ)なつて一切衆生を養ひ給ふ」と断じ、法華経へのさらなる信仰に励むよう諭されております。 また文末では、この年の三月の仏事に曾谷殿が多大な鵞目(銭)の供養されたおかげで、百余人の弟子達が「法華経をよましめ談義して候ぞ」と記し、この事は「末代悪世には一えんぶだい(全世界)第一の仏事にてこそ候へ<中略>釈尊は孝養の人を世尊となづけ給へり、貴辺あに世尊にあらずや」とまで賛嘆されておられます。 ■ご真筆:現存していない。 [曾谷殿御返事(輪陀王御書) 本文] 焼米二俵・給ひ畢(おわん)ぬ。 米は少(すこし)と思食(おぼしめ)し候へども人の寿命を継ぐ者にて候。命をば三千大千世界にても買はぬ物にて候と仏は説かせ給へり。米は命を継ぐ物なり。譬えば米は油の如く・命は燈(ともしび)の如し、法華経は燈の如く行者は油の如し、檀那は油の如く行者は燈の如し。一切の百味の中には乳味と申して牛の乳(ちち)第一なり。涅槃経の七に云く「猶諸味の中に乳・最も為(こ)れ第一なるが如し」云云。乳味をせんずれば酪味となる、酪味をせん(煎)ずれば乃至醍醐味となる。醍醐味は五味の中の第一なり。 法門を以て五味にたとへば儒家の三千・外道の十八大経は衆味の如し。阿含経は醍醐味なり。阿含経は乳味の如く・観経等の一切の方等部の経は酪味の如し。一切の般若経は生蘇味・華厳経は熟蘇味、無量義経と法華経と涅槃経とは醍醐のごとし又涅槃経は醍醐のごとし、法華経は五味の主(しゅ)の如し。 妙楽大師云く「若し教旨を論ずれば法華は唯・開権顕遠を以つて教の正主(しょうしゅ)と為す。独り妙の名を得る。意(こころ)此に在り」云云。又云く「故に知んぬ法華は為(こ)れ醍醐の正主」等云云。 此の釈は正(まさし)く法華経は五味の中にはあらず、此の釈の心は五味は寿命をやしなふ、寿命は五味の主なり。天台宗には二つの意あり。一には華厳・方等・般若・涅槃・法華は同じく醍醐味なり。此の釈の心は爾前と法華とを相似せるににたり。世間の学者等・此の筋のみを知りて・法華経は五味の主と申す法門に迷惑せるゆへに諸宗にたぼらかさるるなり。開・未開・異(こと)なれども同じく円なりと云云。是は迹門の心なり。 諸経は五味・法華経は五味の主と申す法門は本門の法門なり。此の法門は天台・妙楽粗(ほぼ)書かせ給い候へども分明(ふんみょう)ならざる間・学者の存知すくなし。此の釈に若論教旨とかかれて候は法華経の題目を教旨とはかかれて候。開権と申すは五字の中の華の一字なり。顕遠とかかれて候は五字の中の蓮の一字なり。独得妙名とかかれて候は妙の一字なり。意在於此(いざい・おし)とかかれて候は、法華経を一代の意と申すは題目なりとかかれて候ぞ。 此れを以て知んぬべし。法華経の題目は一切経の神(たましい)・一切経の眼目なり。大日経等の一切経をば法華経にてこそ開眼供養すべき処に大日経等を以て一切の木画(もくえ)の仏を開眼し候へば日本国の一切の寺塔の仏像等・形は仏に似れども心は仏にあらず、九界の衆生の心なり。愚癡(ぐち)の者を智者とすること是より始まれり。国のついへ(費)のみ入りて祈りとならず、還って仏・変じて魔となり・鬼となり、国主乃至万民をわづらはす是なり。今法華経の行者と檀那との出来する故に・百獣の師子王をいとひ、草木の寒風をおそるるが如し。 是は且くをく。法華経は何故ぞ諸経に勝れて一切衆生の為に用いる事なるぞと申すに、譬えば草木は大地を母とし・虚空を父とし・甘雨を食とし・風を魂とし・日月をめのと(乳母)として生長し・華さき菓(このみ)なるが如く、一切衆生は実相を大地とし・無相を虚空とし・一乗を甘雨とし・已今当第一の言(ことば)を大風とし・定慧力(じょうえりき)荘厳を日月として妙覚の功徳を生長し・大慈大悲の華さかせ・安楽仏果の菓(このみ)なつて一切衆生を養ひ給ふ。 一切衆生又食するによりて寿命を持つ。食に多数あり。土を食し・水を食し・火を食し・風を食する衆生もあり。求羅(ぐら)と申す虫は風を食す、うぐろもち(鼹鼠)と申す虫は土を食す。人の皮肉・骨髄等を食する鬼神もあり、尿糞等を食する鬼神もあり、寿命を食する鬼神もあり、声を食する鬼神もあり、石を食するいを(魚)・くろがね(鉄)を食するばく(獏)もあり、地神・天神・竜神・日月・帝釈・大梵王・二乗・菩薩・仏は、仏法をなめて身とし・魂とし給ふ。 例せば乃往(むかし)過去に輪陀王と申す大王ましましき。一閻浮提の主なり賢王なり。此の王はなに物をか供御(とも)とし給うと申せば、白馬の鳴声(いななくこえ)をきこしめして身も生長し・身心も安穏にしてよ(代)をたもち給う。れいせば蝦蟆(かえる)と申す虫の母のなく声を聞いて生長するがごとし。秋のはぎ(萩)のしか(鹿)の鳴くに華のさくがごとし。象牙草のいかづち(雷)の声にはらみ、柘榴(じゃくろ)の石にあふて・さかうるがごとし。 されば此の王・白馬を・をほくあつめて・かはせ給ふ。又此の白馬は白鳥をみてなく馬なれば、をほくの白鳥をあつめ給いしかば我が身の安穏なるのみならず、百官・万乗もさかへ天下も風雨・時にしたがひ、他国もかうべ(頭)をかたぶけて・すねん(数年)すごし給うに、まつり事のさをい(相違)にや・はむべりけん又宿業によつて果報や尽きけん、千万の白鳥一時にうせしかば又無量の白馬もなく事やみぬ。大王は白馬の声をきかざりしゆへに華のしぼめるがごとく、月のしよく(蝕)するがごとく、御身の色かはり・力よはく・六根もうもう(朦朦)として・ぼ(耄)れたるがごとくありしかば、きさき(后)も・もうもう(朦朦)しくならせ給い、百官万乗も・いかんがせんとなげき、天もくもり・地もふるひ・大風・かんぱち(旱颰)し・けかち(飢渇)・やくびよう(疫病)に人の死する事、肉はつか(塚)・骨はかはら(瓦)とみへしかば他国よりも・をそひ来たれり。 此の時・大王いかんがせんと・なげき給いしほどに、せんする所は仏神にいのるには・しくべからず。此の国に・もとより外道をほく国国をふさげり。又仏法という物を・をほく・あがめをきて国の大事とす。いづれにてもあれ白鳥をいだして白馬をなかせん法をあがむべし。まづ外道の法に・をほせつけて数日をこなはせけれども白鳥一疋(ぴき)もいでこず・白馬もなく事なし。此の時・外道のいのりを・とどめて仏教に・をほせつけられけり。其の時・馬鳴(めみょう)菩薩と申す小僧一人あり。めしいだされければ此の僧の給はく、国中に外道の邪法をとどめて仏法を弘通し給うべくば馬をなかせん事やすしといふ。勅宣に云く、をほせのごとくなるべしと。 其の時に馬鳴菩薩・三世十方の仏にきしやう(起請)し申せしかば・たちまちに白鳥出来せり。白馬は白鳥を見て一こへなきけり。大王・馬の声を一こへ・きこしめして眼を開き給い、白鳥二ひき乃至百千いできたりければ百千の白馬一時に悦びなきけり。大王の御いろ・なをること日しよく(蝕)の・ほん(本)にふく(復)するがごとし。身の力・心のはかり事・先先(さきざき)には百千万ばい・こへたり。きさきも・よろこび、大臣公卿いさみて万民もたな心をあはせ、他国も・かうべを・かたぶけたりとみへて候。 今のよ(世)も又是にたがうべからず。天神七代・地神五代・已上十二代は成劫のごとし。先世のかいりき(戒力)と福力とによつて今生のはげみ・なけれども、国もおさまり・人の寿命も長し。人王のよ(代)となりて二十九代があひだは先世のかいりきも・すこしよはく・今生のまつり事も・はかなかりしかば、国にやうやく三災・七難をこりはじめたり。なを・かんど(漢土)より三皇五帝の世を・をさむべきふみ(文書)わたりしかば、其をもつて神をあがめて国の災難をしづむ。人王第三十代欽明天王の世となりて国には先世のかいふく(戒福)うすく・悪心がうじやうの物をほく出で来て・善心をろかに・悪心は・かしこし。外典のをしへ(教)はあさし・つみ(罪)も・をも(重)きゆへに外典すてられ内典になりしなり。 れいせば・もりや(守屋)は日本の天神七代・地神五代が間の百八十神(ももやそがみ)をあがめたてまつりて仏教をひろめずして・もとの外典となさんといのりき。聖徳太子は教主釈尊を御本尊として法華経・一切経をもんしよ(文書)として両方のせうぶ(勝負)ありしに・ついには神はまけ・仏はかたせ給いて神国はじめて仏国となりぬ。天竺・漢土の例のごとし。「今此三界・皆是我有」の経文あらはれさせ給うべき序(ついで)なり。欽明より桓武にいたるまで二十よ代・二百六十余年が間、仏を大王とし・神を臣として世ををさめ給いしに、仏教はすぐれ神は・をとりたりしかども未だ・よ(代)をさまる事なし。 いかなる事にやと・うたがはりし程に、桓武の御宇に伝教大師と申す聖人出来して勘えて云く、神はまけ・仏はかたせ給いぬ。仏は大王・神は臣か(下)なれば上下あひついで・れいぎ(礼儀)ただしければ国中をさまるべしと・をもふに、国のしづかならざる事ふしん(不審)なるゆへに一切経をかんがへて候へば道理にて候けるぞ。仏教に・をほきなるとが(科)ありけり。一切経の中に法華経と申す大王をはします。ついで華厳経・大品経・深密経・阿含経等は、あるいは臣の位・あるいはさふらい(侍)のくらい・あるいはたみ(民)の位なりけるを、或は般若経は法華経にはすぐれたり 三論宗・或は深密経は法華経にすぐれたり 法相宗・或は華厳経は法華経にすぐれたり 華厳宗・或は律宗は諸宗の母なりなんど申して・一人として法華経の行者なし。世間に法華経を読誦するは還つて・をこつ(笑)き・うしなうなり。「之に依つて天もいかり守護の善神も力よはし」云云。所謂「法華経を・ほむといえども返つて法華の心をころす」等云云。 南都七大寺・十五大寺・日本国中の諸寺諸山の諸僧等、此のことばを・ききて・をほきにいかり、天竺の大天・漢土の道士・我が国に出来せり、所謂最澄と申す小法師是なり。せんずる所は行きあはむずる処にてかしら(頭)をわれ・かた(肩)をきれ・をとせ・う(打)て・の(詈)れと申せしかども桓武天皇と申す賢王たづね・あきらめて六宗はひが事なりけりとて・初めて・ひへい山をこんりうして天台法華宗とさだめをかせ・円頓の戒を建立し給うのみならず、七大寺・十五大寺の六宗の上に法華宗をそ(副)へをかる。せんする所・六宗を法華経の方便となされしなり。れいせば神の仏にまけて門(かど)まほりとなりしがごとし。 日本国も又又かくのごとし。法華最第一の経文初めて此の国に顕れ給い「能竊為一人(のうせっちいちにん)・説法華経」の如来の使ひ・初めて此の国に入り給いぬ。桓武・平城(へいぜい)・嵯峨の三代・二十余年が間は日本一州・皆法華経の行者なり。 しかれば栴檀には伊蘭・釈尊には提婆のごとく、伝教大師と同時に弘法大師と申す聖人・出現せり。漢土にわたりて大日経・真言宗をならい、日本国にわたりて・ありしかども、伝教大師の御存生の御時はいたう法華経に大日経すぐれたりといふ事はいはざりけるが、伝教大師去ぬる弘仁十三年六月四日にかくれさせ給いてのち、ひまをえたりとや・をもひけん、弘法大師去ぬる弘仁十四年正月十九日に真言第一・華厳第二・法華第三、法華経は戯論(けろん)の法・無明の辺域・天台宗等は盗人なりなんど申す書(ふみ)どもをつくりて・嵯峨の皇帝(みかど)を申しかすめたてまつりて七宗に真言宗を申しくはえて七宗を方便とし、真言宗は真実なりと申し立て畢んぬ。 其の後・日本一州の人ごとに真言宗になりし上・其の後又伝教大師の御弟子・慈覚と申す人・漢土にわたりて天台真言の二宗の奥義をきはめて帰朝す。此の人・金剛頂経・蘇悉地経の二部の疏をつくりて前唐院と申す寺を叡山に申し立て畢んぬ。此れには大日経第一・法華経第二、其の中に弘法のごとくなる過言(かごん)かずうべからず。せむぜむ(先先)に・せうせう申し畢んぬ。智証大師又此の大師のあとをついで・をんじやう(園城)寺に弘通せり。たうじ(当時)寺とて国のわざはい(禍)とみゆる寺是なり。叡山の三千人は慈覚・智証をはせずば真言すぐれたりと申すをば・もちいぬ人もありなん。円仁大師に一切の諸人くち(口)をふさがれ・心をたぼらかされて・ことばをいだす人なし。王臣の御きえ(帰依)も又伝教・弘法にも超過してみへ候へば、えい山・七寺・日本一州・一同に法華経は大日経に・をとりと云云。法華経の弘通の寺寺ごとに真言ひろまりて法華経のかしらとなれり。かくのごとくしてすでに四百余年になり候いぬ。やうやく此の邪見ぞうじやう(増上)して八十一乃至・五の五王すでにうせぬ。仏法うせしかば王法すでにつき畢んぬ。 あまつさへ禅宗と申す大邪法・念仏宗と申す小邪法・真言と申す大悪法、此の悪宗はな(鼻)をならべて一国にさかんなり。天照太神はたましい(魂)をうしなつて・うぢご(氏子)をまほらず、八幡大菩薩は威力よはくして国を守護せず。けつくは他国の物とならむとす。 日蓮此のよしを見るゆへに「仏法中怨・倶堕地獄」等のせめをおそれて粗・国主にしめせども・かれらが邪義にたぼらかされて信じ給う事なし。還つて大怨敵となり給いぬ。法華経をうしなふ人・国中に充満せりと申せども・人しる事なければただぐち(愚癡)のとがばかりにてありしが、今は又法華経の行者出来(しゅったい)せり。日本国の人人・癡(おろか)の上にいかりををこす。邪法をあい(愛)し・正法をにくむ。三毒がうじやうなる一国いかでか安穏なるべき。 壊劫(えこう)の時は大の三災をこる。いはゆる火災・水災・風災なり。又減劫の時は小の三災をこる。ゆはゆる飢渇(けかち)・疫病・合戦(かっせん)なり。飢渇は大貪よりをこり、やくびやうは・ぐちよりをこり、合戦は瞋恚(しんに)よりをこる。 今日本国の人人・四十九億九万四千八百二十八人の男女人人ことなれども同じく一つの三毒なり。所謂南無妙法蓮華経を境としてをこれる三毒なれば人ごとに釈迦・多宝・十方の諸仏を一時にの(罵)り・せ(責)め・流し・うしなうなり。是れ即ち小の三災の序(ついで)なり。 しかるに日蓮が一るい・いかなる過去の宿しう(習)にや。法華経の題目のだんなとなり給うらん。是をもつてをぼしめせ。今梵天・帝釈・日月・四天・天照太神・八幡大菩薩・日本国の三千一百三十二社の大小のじんぎは過去の輪陀王のごとし。白馬は日蓮なり。白鳥は我らが一門なり。白馬のなくは我等が南無妙法蓮華経のこえなり。此の声をきかせ給う梵天・帝釈・日月・四天等いかでか色をまし、ひかりをさかんになし給はざるべき、いかでか我等を守護し給はざるべきと、つよづよと・をぼしめすべし。 抑(そもそも)貴辺の去ぬる三月の御仏事に鵞目(がもく)其の数有りしかば、今年一百よ人の人を山中にやしなひて十二時の法華経をよましめ談義して候ぞ。此れらは末代悪世には一えんぶだい第一の仏事にてこそ候へ。いくそばくか過去の聖霊も・うれしくをぼすらん。釈尊は孝養の人を世尊となづけ給へり。貴辺あに世尊にあらずや。 故大進阿闍梨の事なげかしく候へども、此れ又法華経の流布の出来すべき・いんえん(因縁)にてや候らんと・をぼしめすべし。事事命ながらへば其の時申すべし。 弘安二年己卯(つちのとう)八月十七日 日 蓮 花 押 曾谷入道殿御返事
by johsei1129
| 2019-11-13 22:39
| 曾谷入道
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