2017年 09月 17日
日蓮はこのあと、弟宗長に『あまりにたうとくうれしき事なれば申す』と記した手紙をおくっている。日蓮は病身だったが、書かずにはいられなかった。
此の事は一代聖教をも引きて百千まいにかくとも、つくべしとはをもわねども、やせやまいと申し、身もくるしく候へば、事々申さず。あわれあわれ、いつかげざんに入りて申し候はん。又むかいまいらせ候ひぬれば、あまりのうれしさに、かたられ候はず候へばあらあら申す。よろづは心にすいしはからせ給へ。女房の御事同じくよろこぶと申させ給へ。恐々謹言 『兵衛志殿御返事』 面会したならば、あまりのうれしさに言葉がでないであろうという。感激がよく伝わっている。 宗長を突き放したかにみえた日蓮だが、むろん内心はちがう。劇的な改心を求めるためにわざと突き放した。 日蓮は晩年、弟子に法華経を講義し、それを日興上人が書き留めた御義口伝で、次のように口伝している。 信解品六箇の大事 第四心懐悔恨の事 日本国の一切衆生は子の如く日蓮は父の如し、法華不信の失に依つて無間大城に堕ちて返つて日蓮を恨みん、又日蓮も声も惜まず法華を捨つ可からずと云うべきものを霊山にて悔ること之れ有る可きか
(訳)日本国の衆生は法華経を信じないで無間地獄に落ちて日蓮を恨むであろう、しかし日蓮とて声も惜まず法華を捨つ可からずと云うべきだったと悔いることであろう。
日蓮は、一度は法華経に帰依した宗長が法華経を捨て無間地獄に落ちることは、自分自身が悔いることにもなると、声も惜しまず「法華を捨つ可からず」と宗長に説いたのだった。 では兄宗仲への思いはどうだったろう。 日蓮は最後まで強信だった兄に、なかば尊敬をこめて書をおくる。 当今は末法の始めの五百年に当たりて候。かゝる時刻に上行菩薩御出現あって、南無妙法蓮華経の五字を日本国の一切衆生にさづけ給ふべきよし経文分明なり。又流罪死罪に行はるべきよし明らかなり。日蓮は上行菩薩の御使ひにも似たり、此の法門を弘むる故に。神力品に云わく「日月の光明の能く諸の幽冥を除くが如く、斯の人世間に行じて能く衆生の闇を滅す」等云云、此の経文に斯人行世間の五の文字の中の人の字をば誰とか思し食す、上行菩薩の再誕の人なるべしと覚えたり、経に云く「我が滅度の後に於て応に斯の経を受持すべし、是の人仏道に於て決定して疑有ること無けん」云云。貴辺も上行菩薩の化儀をたすくる人なるべし」 『右衛門太夫殿御返事』
兄宗仲を「上行菩薩の化儀をたすくる人」と称えている。 日蓮は強盛な信徒には、自分の胸中をあますところなく吐露している。 このあと弟宗長にあてた手紙に、日蓮自身が愚痴をこぼす珍しい消息がある。 内容は身延山に隠棲したはずなのに、来客がひっきりなしにあり、とてもおちつけないという。弟子も多いときには六十人いて騒がしいばかりだという。そんな嬉しさ半分の内心のいらいらをユーモアたっぷりにつたえている。 其の上兄弟と申し、右近の尉の事と申し、食もあいついで候。人はなき時は四十人、ある時は六十人、いかにせき候へども、これにある人々のあにとて出来し、舎弟とてさしいで、しきひ候ひぬれば、かゝはやさにいかにとも申しへず。心にはしづかにあじちむすびて、小法師と我が身計り御経よみまいらせんとこそ存じて候に、かゝるわづらわしき事候はず。又としあけ候わばいづくへもにげんと存じ候ぞ。かゝるわづらわしき事候はず。又々申すべく候。 なによりもゑもんの大夫志ととのとの御事、ちゝの御中と申し、上のをぼへと申し、面にあらずば申しつくしがたし。恐々謹言。 『兵衛志殿御返事』 このようなうちとけた内容の手紙はめったにない。兄弟にあてた手紙だからこそ安心してしるしたのであろう。すこしおどけた感もある。兄弟の強信をいかによろこんでいるかがわかる。 日蓮は在家の信徒に自身の内証を明かすことはまれだった。 法華経の根本については極めて厳格だったが、自身の立場については常に控えめだった。 信徒へは、日蓮は殺生を生業とする漁師を父に持ち、一族の王子として生まれた釈尊とは異なり、最下層のスードラの身であると手紙で記している。 いっぽう弟子に対しては前述の御義口伝で説く。 日蓮は不用意に内証を信徒に語ることにより、いわば良観のように生き仏などと神格化され、釈尊の説いた極説中の極説である法華経への信仰が損なわれることを危惧していた。 日蓮は信徒に対しては、終生法華経の行者、もしくは上行菩薩に先駆けて妙法を広めるという言葉で自分の立場を表現していた。唯一の例外と言えるのが、日蓮が滅度する年、弘安五年の四月八日に太田金吾に宛てた「三大秘法稟承事」である。この書で日蓮は次のように説いている。 <前略> 此の三大秘法は二千余年の当初、地涌千界の上首として日蓮慥かに教主大覚世尊より口決せし相承なり。今日蓮が所行は霊鷲山の稟承に芥爾計りの相違なき、色も替はらぬ寿量品の事の三大事なり。問ふ一念三千の正しき証文如何。答ふ。次に申し出すべし。此に於て二種有り。方便品に云はく「諸法実相・所謂諸法・如是相乃至欲令衆生開仏知見」等云云。底下の凡夫理性所具の一念三千か。寿量品に云はく 「然我実成仏已来無量無辺」等 云云。大覚世尊久遠実成の当初証得の一念三千なり。今日蓮が時に感じ此の法門広宣流布するなり。予年来己心に秘すと雖も此の法門を書き付けて留め置かずんば、門家の遺弟等定めて無慈悲の讒言を加ふべし。其の後は何と悔ゆとも叶ふまじきと存する間、貴辺に対し書き遺し候。一見の後、秘して他見有るべからず、口外も詮無し。法華経を諸仏出世の一大事と説かせ給ひて候は、此の三大秘法を含めたる経にて渡らせ給へばなり、秘すべし秘すべし。 弘安五年卯月八日 日 蓮 花 押 |
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