2019年 12月 22日
日蓮が弘安五年(一二八二年)十月十三日に滅度して以来、本年平成二十九年(二○十七年)で七百三十五年になろうとしている。 現在の日本の仏教界の現状を省みると、日蓮が四箇の格言(念仏無間、禅天魔、真言亡国、律国賊)で徹底的に破折した鎌倉仏教は、既に形骸化し葬式仏教となり下がり、民衆及び国家権力への精神的影響力は喪失している。 まことに恐れ多いことでは有るが、ここで仏教史上における釈尊と日蓮大聖人のこの世に出現した因縁について考察する。 妙法蓮華経 薬草喩品五で「如来説法 一相一味」と説かれている。つまり「諸法の実相」を究めた仏の悟りは、どの仏も同じであると説いている。違いは、説く時代(劫)、その仏が応誕する有縁の国、仏滅後の法が有効に続く期間である。 妙法蓮華経 譬喩品第三で釈尊は、智慧第一の舎利弗に未来世で華光如来となると「記別」を与える。そのさい釈尊は、華光如来が出現する仏国土の名を「離垢」、劫の名を「大宝荘厳」、華光如来の寿命を「十二小劫」、人民の寿命を「八小劫」と示している。 さらに華光如来が出現し十二小劫を経た時に、堅満菩薩に未来世で「華足安行阿羅訶三藐三仏陀」となるとの記別を与え、華光如来が滅度の後、正法が三十二小劫、像法が三十二小劫続くと解き明かす。 因みに現在の地球の仏国土名は「娑婆」、劫の名は「賢劫」である。 釈迦はインドに応誕し、最後の八年間で妙法蓮華経を霊鷲山で説き、上行菩薩に滅後の妙法蓮華経の弘通を付属し八十歳で滅度した。釈迦滅後正法千年、像法千年、つまり二千年で釈迦仏法は力を失い末法に入る。そして妙法蓮華経有縁の地日本に、上行菩薩の再誕として日蓮大聖人が誕生し、竜の口法難で発迹顕本し末法の本仏としての本地を顕す。 それでは日蓮滅後、法はどう続いていくのか。日蓮は報恩抄で次のように明確に宣言している。 「日蓮が慈悲曠大ならば南無妙法蓮華経は万年の外・未来までもながるべし、日本国の一切衆生の盲目をひらける功徳あり、無間地獄の道をふさぎぬ、此の功徳は伝教・天台にも超へ竜樹・迦葉にもすぐれたり。極楽百年の修行は穢土の一日の功徳に及ばず、正像二千年の弘通は末法の一時に劣るか。是れひとへに日蓮が智のかしこきには・あらず、時のしからしむる耳。春は花さき秋は菓なる夏は・あたたかに冬は・つめたし時のしからしむるに有らずや」 日蓮大聖人は、釈迦滅後の正像二千年の弘通は末法の一時、つまり日蓮大聖人及び滅後の門下遺弟の弘通に劣る。それは時のしからしむる故であると断言している。 さらに佐渡で記された「顕仏未来記」で次のようにその理由を示されている。
法華経の第七(薬王品第二十三)に云く「我が滅度の後・後の五百歳の中に閻浮提に広宣流布して断絶せしむること無けん」等云云。(中略)疑つて云く正像の二時を末法に相対するに、時と機と共に正像は殊に勝るるなり、何ぞ其の時機を捨てて偏に当時(末法)を指すや、答えて云く仏意測り難し予未だ之を得ず、試みに一義を案じ小乗経を以て之を勘うるに、正法千年は教行証の三つ具さに之を備う、像法千年には教行のみ有つて証無し、末法には教のみ有つて行証無し等云云。
釈尊の法門は、末法では教は存在するが、仏になるための修行方法である「行」は時に叶わず、それ故仏になる衆生も存在しないと断じている。釈尊は法華経で修行法として教を聞き、人に聞かせ、持ち(受持=信じ)、人にも持たせ、書き、人に書かしめ、華、香等で経巻を供養せよと説いている。また大乗経では修行法として「六波羅蜜」の「布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧」を示している。 また釈尊は法華経の結経である「仏説観普賢菩薩行法経(普賢経)」で、仏が入滅された後、どのように修行すればよいかと尋ねる弟子等に、要約すると次のように答える。
普賢菩薩を観想し、 大乗経典を読誦し、 大乗の教えを深く思索し、 諸仏を礼拝し、 過去世に作った宿業を懺悔し、 この修業を繰り返す。
この修行法は、あくまで王族、長者の出家者でなければ経済的、時間的に叶わない修行であることは言うまでもない。事実、法華経には、善男子、善女子という言葉が度々登場する。この善男女のサンスクリットの意味は、素性の良い男女を指している。つまり過去世に善行を積んだ功徳として、王族長者の一族に誕生した衆生を意味している。その身分以下の衆生は、托鉢をする出家僧に種々の供養をすることで、功徳を分け与えられるという思想である。現代でも小乗経が流布された東南アジアの仏教国、タイ、ミャンマー等の国では出家僧に対する供養は、信じられないほど熱心に行われている。しかし僧を敬うことはあっても自分たちが自ら経を読誦し、教えを想念し他者に布教することはない。家族から僧を出すことは大きな功徳を得られると信じられているが、僧は戒律を守るだけで働くことはできないので、限られた者だけが出家する。 それに対し日蓮は、僧俗問わず、すべての衆生が法華経を読誦し南無妙法蓮華経と唱え、人にも語ること(布教)を末法の修行であると説いた。 佐渡で記された「諸法実相抄」で次のように説き、門下に諭されている。
いかにも今度・信心をいたして法華経の行者にてとをり、日蓮が一門となりとをし給うべし、日蓮と同意ならば地涌の菩薩たらんか、地涌の菩薩にさだまりなば釈尊久遠の弟子たる事あに疑はんや。 経に云く「我久遠より来かた是等の衆を教化す」とは是なり、末法にして妙法蓮華経の五字を弘めん者は男女はきらふべからず、皆地涌の菩薩の出現に非ずんば唱へがたき題目なり。 日蓮一人はじめは南無妙法蓮華経と唱へしが、二人・三人・百人と次第に唱へつたふるなり、未来も又しかるべし、是あに地涌の義に非ずや剰へ広宣流布の時は日本一同に南無妙法蓮華経と唱へん事は大地を的とするなるべし。 (中略) 此文には日蓮が大事の法門ども・かきて候ぞ、よくよく見ほどかせ給へ・意得させ給うべし、一閻浮提第一の御本尊を信じさせ給へ、あひかまへて・あひかまへて・信心つよく候て三仏の守護をかうむらせ給うべし、行学の二道をはげみ候べし、行学たへなば仏法はあるべからず、我もいたし人をも教化候へ、行学は信心よりをこるべく候、力あらば一文一句なりともかたらせ給うべし、南無妙法蓮華経・南無妙法蓮華経、恐恐謹言 最後に筆者のつたない体験を紹介してこの小説の終わりとする。 筆者は過日、総本山大石寺を訪れた。 大石寺の緑の山々は霧雨におおわれて間近に迫り、静寂の世界があたりを支配していた。 月は西より出でて東を照し、日は東より出でて西を照す、仏法も又以て是くの如し、正像には西より東に向い、末法には東より西に往く。 「顕仏未来記」 文永十年五月十一日 インドで発祥した仏教は日本に伝わった。大聖人の仏法は日本に始まりインドにかえると断言されている。さらに大聖人は自らを旃陀羅の生まれと仰せられた。このインドの信徒も低い階層の衆生である。 完 注 多造塔寺堅固 釈尊は入滅後の教えの変遷について大集経で、正しく伝わる正法時代が千年、似た教えが伝わる像法時代が千年続き、その後白法穏没する末法に入ると説いている。さらに正法、像法二千年を五百年ごとに区切り次のような時代になると予言している。はじめの五百年を解脱堅固といい、仏法で悟りを得る時代、次の五百年は禅定堅固で、禅定(心を定めて想念する)により悟りを得る時代、次の五百年は読誦多聞堅固で、経文の読誦が盛んに行われる時代、次の五百年は多造塔寺堅固で寺社・仏閣が盛んに建造される時代である。最後の末法の最初の五百年は、闘諍堅固・白法隠没の時代に入り、争いごとが盛んとなり、白法が隠没する時代であると説いている。 「大集経に大覚世尊、月蔵菩薩に対して未来の時を定め給えり。所謂我が滅度の後の五百歳の中には解脱堅固、次の五百年には禅定堅固已上一千年、次の五百年には読誦多聞堅固、次の五百年には多造塔寺堅固已上二千年、次の五百年には我法の中に於て闘諍言訟して白法隠没せん等云云」(撰時抄)
by johsei1129
| 2019-12-22 07:11
| 小説 日蓮の生涯 下
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