【伯耆公御房消息】
■出筆時期:弘安五年(西暦1281)二月二五日 六十一御作。
■出筆場所:身延山中 館にて。
■出筆の経緯:本書は南条時光の病の急変を聞いた大聖人が、日朗に口述筆記させ、日興上人(伯耆房)に法華経薬王品の文を灰に焼いて精進河の水にいれ、時光に飲ませるよう指示している。さらに時光の大病がたとえ定業(寿命)だとしても、この度ばかりは助け給えと閻魔王に請願していると記し、時光に必ず助かるのだと強く励まされている。この大聖人の祈りにより、短命の家系だった時光は五十年寿命を延ばし、元弘元年(1331年)十月、大聖人の五十遠忌の法要を兄とも慕う日興上人とともに営み、翌年の正慶元年五月一日、七十四歳で、法華経、大聖人、日興上人に殉じた潔い生涯を終えている。
■ご真筆: 富士大石寺 所蔵(日朗代筆)
[伯耆公御房消息 本文]
御布施、御馬一疋鹿毛・御見参に入らしめ候ひ了んぬ。
兼ねて又此の経文は廿八字、法華経の七の巻薬王品の文にて候。然るに聖人の御乳母のひとゝせ(一年)御所労・御大事にならせ給ひ候て、やがて死なせ給ひて候ひし時、此の経文をあそばし候て、浄水をもってまいらせさせ給ひて候ひしかば、時をかへず・いきかへらせ給ひて候経文なり。
なんでう(南条)の七郎次郎時光は、身はちいさきものなれども日蓮に御こゝろざしふかきものなり。
たとい定業なりとも今度ばかり・えんまわう(閻魔王)たすけさせ給へと、御せいぐわん(請願)候。
明日、寅卯辰(とらうたつ)の刻に、しやうじがは(精進河)の水とりよせさせ給ひ候て・このきやうもん(経文)をはいにやきて(灰に焼きて)、水一合に入れまいらせ候てまいらせさせ給ふべく候。恐々謹言。
二月廿五日 日 朗 花 押
謹 上 は わ き 公 御 房
[妙法蓮華経
薬王菩薩本事品第二十三]
此経則為。閻浮提人。病之良薬。若人有病。得聞是経。病即消滅。不老不死。
(訳) 此の経は則ち閻浮提の人の病の良薬なり。若し人病有らんに、此の経を聞くこと得ば、病即ち消滅して不老不死ならん。