2024年 09月 20日
【寺泊御書】 ■出筆時期:文永八年(西暦1271年)十月二十二日 五十歳 御作。
■出筆場所:越後国(現在の新潟県)、寺泊(佐渡渡航の港)にて。 ■出筆の経緯:日蓮大聖人は竜の口法難の後、本間重連の屋敷に一時預かりとなる。そして10月10日佐渡へ出立、10月21日に越後・寺泊に到着するが、あいにく海は荒れ、数日寺泊にとどまる事を余儀なくされた。本書は寺泊到着の翌日、信徒の重鎮・土(富)木常忍に宛てた手紙で、常忍が大聖人の佐渡へのお供として遣わした入道を、(あなたの)志は有難いが費用もかかるのでここで帰ってもらいますと、本書を持たせて常忍の元へ戻されている。また本書の内容は、法華経勧持品に説かれている「及び刀杖を加うる者」を、日蓮は此の経文を読めりと断じ、最後にこの度の難で獄中にいる僧たちにも、(あなたの)都合の良い時早々に、ここに書いた法門を伝えて欲しいと、自身同様、不遇の境遇に置かれている弟子を気遣って本書を結ばれておられる。 ■ご真筆:中山法華経寺 所蔵(完存) ![]() ![]() 真筆箇所:(下) 此入道佐渡国可為御供之由承申之。可然用途云かたがた有煩之故還之。 御志始不及申之。人人如是申給。但囹僧等懸心候。便宜之時早々可聴之。穴賢穴賢。 十月二十二日酉時 日 蓮 花押 土木殿 [寺泊御書 本文] 鵞目一結(ゆい)給び了んぬ。心ざしあらん諸人は一処にあつまりて御聴聞あるべし。 今月 十月なり 十日、相州愛京(あいこう)郡・依智(えち)の郷を起つて武蔵の国・久目河(くめがわ)の宿に付き、十二日を経て越後の国寺泊(てらどまり)の津に付きぬ。此れより大海を亘(わた)つて佐渡の国に至らんと欲するに順風定まらず、其の期(ご)を知らず。道の間の事、心も及ぶこと莫く・又筆にも及ばず、但暗に推し度(はか)る可し。又本より存知の上なれば始めて歎く可きに非ざれば之を止む。 法華経の第四に云く「而も此の経は如来の現在にすら猶怨嫉多し。況んや滅度の後をや」第五の巻に云く「一切世間怨(あだ)多くして信じ難し」 涅槃経の三十八に云く「爾(そ)の時に一切の外道の衆・咸(ことごと)く是の言を作さく○大王今は唯・一(ひとり)の大悪人有り。瞿曇沙門(くどんしゃもん)なり○一切の世間の悪人・利養の為の故に其の所(もと)に往き集まり・而も眷属と為つて善を修すること能わず。呪術力(じゅじゅつりき)の故に迦葉及び舎利弗・目犍連(もっけんれん)等を調伏す」云云。 此の涅槃経の文は一切の外道、我が本師たる二天三仙の所説の経典を仏陀に毀(やぶ)られて出だす所の悪言なり。法華経の文は仏を怨(あだ)と為す経文には非ず。 天台の意に云く「一切の声聞・縁覚並に近成(ごんじょう)を楽(ねが)う菩薩」等云云。 聞かんと欲せず・信ぜんと欲せず・其の機に当らざるは言を出して謗(そし)ること莫(な)きも、皆怨嫉の者と定め了(おわ)んぬ。在世を以て滅後を推すに、一切諸宗の学者等は皆外道の如し。彼等が云う一大悪人とは日蓮に当れり。一切の悪人・之に集まるとは日蓮が弟子等是なり。彼の外道は先仏の説教流伝の後、之を謬(あやま)つて後仏を怨と為せり。今諸宗の学者等も亦復是くの如し。所詮仏教に依つて邪見を起す。目の転ずる者・大山転ずと欲(おも)う。 今八宗・十宗等多門の故に諍論を至す。涅槃経の第十八に贖命重宝(しょくみょう・じゅうほう)と申す法門あり。天台大師の料簡に云く、命とは法華経なり・重宝とは涅槃経に説く所の前三教なり。但し涅槃経に説く所の円教は如何。此の法華経に説く所の仏性常住を重ねて之を説いて帰本(きほん)せしめ、涅槃経の円常を以て法華経に摂す。涅槃経の得分(とくぶん)は但・前三教に限る。 天台の玄義の三に云く「涅槃は贖命の重宝なり。重ねて掌(て)を抵(う)つのみ」文。籤(せん)の三に云く「今家の引意は大経の部を指して以て重宝と為す」等云云。天台大師の四念処(ねんじょ)と申す文に法華経の「種種の道を示すと雖も」の文を引いて、先ず四味を又重宝と定め了(おわ)んぬ。若し爾らば法華経の先後の諸経は法華経の為の重宝なり。世間の学者の想(おもわく)に云く、此れは天台一宗の義なり・諸宗は之を用いず等云云。 日蓮之を案じて云く、八宗十宗等は皆仏滅後より之を起し、論師人師之を立つ。滅後の宗を以て現在の経を計る可からず。天台の所判は一切経に叶うに依つて一宗に属して之を弃(す)つ可からず。諸宗の学者等・自師の誤りを執する故に或は事を機に寄せ、或は前師に譲り、或は賢王を語らい、結句(けっく)最後には悪心強盛にして闘諍(とうじょう)を起し、失(とが)無き者を之を損(そこな)うて楽と為す。 諸宗の中に真言宗殊に僻案(びゃくあん)を至す。善無畏、金剛智等の想(おもわく)に云く、一念三千は天台の極理・一代の肝心なり。顕密二道の詮たる可きの心地(しんち)の三千は且く之を置く。此の外・印と真言とは仏教の最要等云云。其の後・真言師等・事を此の義に寄せて印・真言無き経経をば之を下すこと外道の法の如し。 或る義に云く、大日経は釈迦如来の外の説なりと。或る義に云く教主釈尊第一の説なりと。或る義には釈尊と現じて顕経を説き、大日と現じて密経を説くと。道理を得ずして無尽の僻見(びゃっけん)之を起す。譬えば乳の色を弁(わきま)えざる者、種種の邪推(じゃすい)を作(な)せども本色(ほんしき)に当らざるが如く・又象の譬への如し。今汝等知る可し。大日経等は法華経已前ならば華厳経等の如く、已後ならば涅槃等の如し。 又天竺の法華経には印・真言有れども、訳者之を略して羅什は妙法経と名づけ、印・真言を加えて善無畏は大日経と名づくるか。譬えば正法華・添品(てんぽん)法華・法華三昧・薩云分陀利(さつうんふんだり)等の如し。仏の滅後、天竺に於いて此の詮を得たるは竜樹菩薩、漢土に於いて始めて之を得たるは天台智者大師なり。真言宗の善無畏等・華厳宗の澄観等・三論宗の嘉祥等・法相宗の慈恩等名は自宗に依れども其の心は天台宗に落ちたり。其の門弟等・此の事を知らず。如何ぞ謗法の失(とが)を免(まぬが)れんや。 或る人日蓮を難じて云く、機を知らずして麤議(あらぎ)を立て難に値うと。或る人云く、勧持品の如きは深位(じんい)の菩薩の義なり、安楽行品に違すと。或る人云く、我も此の義を存すれども言わずと云云。或る人云く、唯教門計りなりと。具(つぶさ)に我・之を存すと雖も卞和(べんか)は足を切られ、清丸(きよまろ)は穢丸(けがれまろ)と云う名を給うて死罪に及ばんと欲す。時の人之を咲(わら)う。然りと雖も其の人・未だ善き名を流さず。汝等が邪難も亦爾る可し。 勧持品に云く「諸の無智の人有つて悪口罵詈し」等云云。日蓮此の経文に当れり、汝等何ぞ此の経文に入らざる。 「及び刀杖を加うる者」等云云。日蓮は此の経文を読めり、汝等何ぞ此の経文を読まざる。 「常に大衆の中に在つて我等が過(とが)を毀(そし)らんと欲す」等云云。「国王大臣・婆羅門・居士(こじ)に向つて」等云云。「悪口して顰蹙(ひんじゅく)し・数数擯出(しばしば・ひんずい)せられん」数数とは度度(たびたび)なり、日蓮・擯出衆度・流罪は二度なり。 法華経は三世の説法の儀式なり。過去の不軽品は今の勧持品、今の勧持品は過去の不軽品なり。今の勧持品は未来は不軽品為(た)る可し。其の時は日蓮は即ち不軽菩薩為る可し。 一部八巻・二十八品・天竺の御経は一由旬に布くと承わる。定めて数品有る可し。今漢土・日本の二十八品は略の中の要なり。正宗は之を置く、流通(るつう)に至つて宝塔品の三箇の勅宣は霊山虚空の大衆に被らしむ。勧持品の二万・八万・八十万億等の大菩薩の御誓言は日蓮が浅智には及ばず。 但し「恐怖悪世中(くふあくせちゅう)」の経文は末法の始めを指すなり。此の「恐怖悪世中」の次下の安楽行品等に云く「於末世(おまっせ)」等云云。同本異訳の正法華経に云く「然後末世(ねんごまっせ)」又云く「然後来末世」添品(てんぽん)法華経に云く「恐怖悪世中」等云云。時に当り・当世三類の敵人は之れ有るに、但八十万億・那由他(なゆた)の諸菩薩は一人も見えたまわず。乾(ひ)たる潮の満たず、月の虧(か)けて満ちざるが如し。水清(す)めば月を浮かべ、木を植うれば鳥棲む。日蓮は八十万億那由他の諸の菩薩の代官として之を申す。彼の諸の菩薩の加被(かび)を請う者なり。 此の入道・佐渡の国へ御供為す可きの由之を申す。然る可き用途と云い、かたがた煩(わずらい)有るの故に之を還す。御志・始めて申すに及ばず候。人人に是くの如く申させ給え。但し囹僧(れいそう)等のみ心に懸り候。便宜の時早早之を聴かす可し。穴賢(あなかしこ)穴賢。 十月二十二日 酉(とり)の時 日 蓮 花押 土木殿
by johsei1129
| 2024-09-20 09:43
| 富木常忍・尼御前
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