2019年 10月 22日
【三三蔵祈雨事】 ■出筆時期:建治元年(西暦1275年)六月二十二日 五十四歳御作。 ■出筆場所:身延山中 草庵にて。 ■出筆の経緯:駿河国・富士郡西山郷の地頭・西山入道に与えられた書。西山入道は大聖人に帰依する前は、真言宗の信徒であった。大聖人は本書の冒頭で「仏になるみちは善知識にはすぎず。わが智慧なににかせん。ただあつき・つめたきばかりの智慧だにも候ならば、善知識たいせちなり」と説くとともに「我が末法に法華経を経のごとくにとく者ありがたし」と記し、弘法大師が自筆で「弘仁九年の春疫れいをいのりてありしかば夜中に日いでたり」と書いてる事を、「かかるそらごと(真夜中に太陽が出現した)をいう人なり」と断じ、「日蓮はかれ(弘法大師)にすぐべきとわが弟子等をぼせども、仏の記文にはたがはず」と、日蓮こそあなたにとって善知識であるとを諭している。 [重須学頭職・三位房日順上人写本(北山本門寺所蔵)] [三三蔵祈雨事]本文 夫れ木をうえ候には大風吹き候へども、つよきすけ(扶)をかひ(介)ぬればたうれず。本より生いて候木なれども、根の弱きはたうれぬ。甲斐無き者なれども、たすくる者・強ければたうれず。すこし健(けなげ)の者も独(ひとり)なれば悪しきみちにはたうれぬ。又三千大千世界のなかには舎利弗・迦葉尊者をのぞいては・仏よ(世)にいで給はずば、一人もなく三悪道に堕つべかりしが、仏をたのみまいらせし強縁によりて一切衆生は・をほく仏になりしなり。まして阿闍世王・あうくつまら(鴦掘摩羅)なんど申せし悪人どもは、いかにもかなうまじくて・必ず阿鼻地獄に堕つべかりしかども、教主釈尊と申す大人にゆきあ(値)はせ給いてこそ仏にはならせ給いしか。 されば仏になるみちは善知識にはすぎず。わが智慧なににかせん。ただあつき・つめたきばかりの智慧だにも候ならば善知識たいせちなり。而るに善知識に値う事が第一のかたき事なり。されば仏は善知識に値う事をば一眼のかめの浮木に入り、梵天よりいと(糸)を下(さげ)て・大地のはりのめ(目)に入るにたとへ給へり。而るに末代悪世には悪知識は大地微塵よりもをほく、善知識は爪上の土よりもすくなし。補陀落(ふだらく)山の観世音菩薩は善財童子の善知識、別円二教ををしへて・いまだ純円ならず。常啼菩薩は身をう(売)て善知識をもとめしに・曇無竭(どんむかつ)菩薩にあへり。通別円の三教をならひて法華経ををしへず。舎利弗は金師が善知識。九十日と申せしかば闡提の人となしたりき。ふるな(富桜那)は一夏(いちげ)の説法に大乗の機を小人となす。大聖すら法華経をゆるされず、証果のらかん(羅漢)・機をしらず。末代悪世の学者等をば此をもつてすいしぬべし。天を地といゐ・東を西といゐ、火を水とをしへ、星は月にすぐれたり、ありづか(蟻塚)は須弥山にこへたり、なんど申す人人を信じて候はん人人は、ならはざらん悪人に・はるか・をとりて・あ(悪)しかりぬべし。 日蓮仏法をこころみるに・道理と証文とにはすぎず。又道理・証文よりも現証にはすぎず。而るに去る文永五年の比(ころ)、東には俘囚(えびす)をこり・西には蒙古より・せめつか(責使)ひつきぬ。日蓮案じて云く、仏法を信ぜざればなり。定めて調伏(ちょうぶく)をこなはれずらん。調伏は又真言宗にてぞあらんずらん。月支・漢土・日本三箇国の間に且(しばら)く月支はをく、漢土・日本の二国は真言宗にやぶらるべし。善無畏三蔵・漢土に亘(わた)りてありし時は・唐の玄宗の時なり。大旱魃ありしに祈雨の法ををほせつけられて候しに、大雨ふらせて上一人より下万民にいたるまで大いに悦びし程に、須臾(しばらく)ありて大風吹き来たりて国土をふきやぶりしかば・けを(興)さめてありしなり。又其の世に金剛智三蔵わたる。又雨の御いのりありしかば、七日が内に大雨下(ふ)り、上(かみ)のごとく悦んでありし程に、前代未聞の大風吹きしかば・真言宗はをそろしき悪法なりとて月支へ・をわれしが、とかうしてとどまりぬ。又同じ御世に不空三蔵・雨をいのりし程、三日が内に大雨下る。悦(よろこび)さきのごとし。又大風吹きてさき二度よりも・をびただし。数十日とどまらず。不可思議の事にてありしなり。此は日本国の智者愚者一人もしらぬ事なり。しらんとをもはば日蓮が生きてある時、くはしくたづねならへ。 日本国には天長元年二月に大旱魃あり。弘法大師も神泉苑にして祈雨あるべきにてありし程に、守敏(すびん)と申せし人すすんで云く「弘法は下ろう(﨟)なり、我は上ろうなり。まづをほせをかほるべし」と申す。こ(請)うに随いて守敏をこなう。七日と申すには大雨下りしかども京中計りにて田舎にふらず。弘法にをほせつけられてありしかば、七日にふらず二七日にふらず、三七日にふらざりしかば、天子・我といのりて雨をふらせ給いき。而るを東寺の門人等、我が師の雨とがうす。くわしくは日記をひきて習うべし。天下第一のわうわく(誑惑)のあるなり。これより外に弘仁九年の春のえきれい(疫癘)、又三古(鈷)なげたる事に不可思議の誑惑(おうわく)あり、口伝すべし。 天台大師は陳の世に大旱魃あり。法華経をよみて須臾に雨下り、王臣かうべをかたぶけ万民たなごころをあはせたり。しかも大雨にもあらず風もふかず甘雨にてありしかば、陳王・大師の御前(みまえ)にをはしまして・内裏(だいり)へかへらん(還御)ことをわすれ給いき。此の時三度の礼拝はありしなり。 去る弘仁九年の春、大旱魃ありき。嵯峨の天王、真綱と申す臣下をもつて冬嗣のとり申されしかば、法華経・金光明経・仁王経をもつて伝教大師・祈雨ありき。三日と申せし日、ほそき・くも(雲)、ほそき・あめ、しづしづと下(ふ)りしかば天子あまりによろこばせ給いて日本第一のかたこと(難事)たりし大乗の戒壇はゆるされしなり。 伝教大師の御師・護命と申せし聖人は南都第一の僧なり。四十人の御弟子あいぐして仁王経をもつて祈雨ありしが、五日と申せしに雨下りぬ。五日はいみじき事なれども、三日にはをとりて而も雨あら(暴)かりしかば・まけにならせ給いぬ。 此れをもつて弘法の雨をばすひせさせ給うべし。かく法華経はめでたく真言はをろかに候に、日本のほろぶべきにや・一向真言にてあるなり。隠岐の法王の事をもつてをもうに、真言をもつて蒙古とえぞ(俘囚)とを・でうぶく(調伏)せば、日本国や・まけんずらんと・すひせしゆへに、此の事いのちをすてて・いゐてみんと・をもひしなり。いゐし時はでしら(弟子等)せい(制)せしかども、いまはあひぬれば心よかるべきにや。漢土・日本の智者・五百余年の間、一人もしらぬ事をかんがへて候なり。善無畏・金剛智・不空等の祈雨(きう)に雨は下(ふ)りて而も大風のそひ候は、いかにか心へさせ給うべき。外道の法なれども、いうにかひなき道士の法にも雨下る事あり。まして仏法は小乗なりとも法のごとく行うならば、いかでか雨下らざるべき。いわうや大日経は華厳・般若にこそをよばねども、阿含にはすこしまさりて候ぞかし。いかでか・いのらんに雨下らざるべき。されば雨は下りて候へども大風のそいぬるは大なる僻事(ひがごと)のかの法の中にまじわれるなるべし。弘法大師の三七日に雨下らずして候を、天子の雨を我が雨と申すは又善無畏等よりも大いにまさる失のあるなり。 第一の大妄語には弘法大師の自筆に云く「弘仁九年の春、疫れい(癘)をいのりてありしかば夜中に日いでたり」と云云。かかるそらごとをいう人なり。此の事は日蓮が門家第一の秘事なり。本文をとりつ(詰)めていうべし。仏法はさてをきぬ、上(かみ)にかきぬる事・天下第一の大事なり。つて(伝)に・をほせあるべからず、御心ざしのいたりて候へば・をどろかしまいらせ候。日蓮をば・いかんがあるべかるらんと・をぼつかなしと・をぼしめすべきゆへに・かかる事ども候。むこり国だにもつよくせめ候わば、今生にもひろまる事も候いなん。あまりにはげしくあたりし人人は・くゆるへんもやあらんずらん。 外道と申すは仏前・八百年よりはじまりて、はじめは二天・三仙にてありしが、やうやくわかれて九十五種なり。其の中に多くの智者・神通のもの・ありしかども、一人も生死をはなれず。又帰依せし人人も善につけ悪につけて、皆三悪道に堕ち候いしを、仏・出世せさせ給いてありしかば、九十五種の外道・十六大国の王臣諸民をかたらひて、或はのり・或はうち・或は弟子・或はだんな等・無量無辺ころ(害)せしかども仏たゆむ心なし。我此の法門を諸人に・をどされて・いゐやむほどならば一切衆生地獄に堕つべしとつよくなげかせ給いしゆへに退する心なし。この外道と申すは先仏の経経を見て・よみそこないて候いしより事をこれり。 今も又かくのごとし。日本の法門多しといへども、源(もと)は八宗・九宗・十宗より・をこれり。十宗のなかに華厳等の宗宗はさてをきぬ。真言と天台との勝劣に弘法・慈覚・智証のまど(惑)ひしによりて、日本国の人人今生には他国にもせめられ、後生にも悪道に堕つるなり。漢土のほろび又悪道に堕つる事も、善無畏・金剛智・不空のあやまりよりはじまれり。又天台宗の人人も慈覚・智証より後は、かの人人の智慧にせかれて天台宗のごとくならず。さればさのみやはあるべき。いわうや日蓮は・かれにす(勝)ぐべきと・わが弟子等をぼせども・仏の記文には・たがはず。 末法に入つて仏法をばう(謗)じ、無間地獄に堕つべきものは大地微塵よりも多く、正法をへたらん人は爪上の土よりもすくなしと涅槃経にはとかれ、法華経には設い須弥山をなぐるものはありとも・我が末法に法華経を経のごとくにと(説)く者ありがたしと記しをかせ給へり。大集経・金光明経・仁王経・守護経・はちなひをん(般泥洹)経・最勝王経等に末法に入つて正法を行ぜん人出来せば、邪法のもの王臣等にうたへてあらんほどに、彼の王臣等・他人がことばにつひて一人の正法のものを或はのり・或はせめ・或はながし(流罪)・或はころさば、梵王・帝釈・無量の諸天・天神・地神等りんごくの賢王の身に入りかはりてその国をほろぼすべしと記し給へり。今の世は似て候者かな。 抑(そもそも)各各はいかなる宿善にて日蓮をば訪(とぶら)はせ給へるぞ。能く能く過去を御尋ね有らば、なにと無くとも此度(このたび)生死は離れさせ給うべし。すりはむどく(須梨槃特)は三箇年に十四字を暗(そら)にせざりしかども・仏に成りぬ。提婆は六万蔵を暗(そら)にして無間に堕ちぬ。是れ偏に末代の今の世を表するなり。敢へて人の上(うえ)と思し食すべからず。事繁ければ止め置き候い畢んぬ。 抑(そもそも)当時の怱怱(そうそう)に御志・申す計り候はねば、大事の事あらあら・をどろかしまひらせ候。ささげ(大角豆)・青大豆(あおまめ)給い候いぬ。 六月二十二日 日 蓮 花 押 西山殿御返事
by johsei1129
| 2019-10-22 21:06
| 弟子・信徒その他への消息
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