2019年 10月 29日
[教行証御書 本文] その三 状に云く、彼此(ひし)の経経・得益の数を挙ぐ等云云。是れ不足に候と先ず陳ぶべし。其の後・汝等が宗宗の依経に三仏の証誠(しょうじょう)之有りや、未だ聞かず。よも多宝分身は御来たり候はじ。此の仏は法華経に来たり給いし間、一仏二言は・やは(争)か御坐(おわし)候べきと。次に六難九易・何なる経の文に之有りや。若し仏滅後の人人の偽経は知らず、釈尊の実説五十年の説法の内には一字一句も有るべからず候なんど立つ可し。五百塵点の顕本之有りや、三千塵点の結縁説法ありや、一念信解・五十展転の功徳・何なる経文に説き給へるや。彼の余経には一二三乃至十功徳すら之無し、五十展転まではよも説き給い候はじ。余経には一二の塵数(じんじゅ)を挙げず、何に況んや五百・三千をや。二乗の成・不成、竜畜・下賤の即身成仏、今の経に限れり。華厳・般若等の諸大乗経に之有りや。二乗作仏は始めて今経に在り。よも天台大師程(ほど)の明哲の、弘法・慈覚の如き無文無義の偽りは・おはし給はじと我等は覚え候。又悪人の提婆・天道国の成道、法華経に並びて何なる経にか之有りや。 然りと雖も万の難を閣(さしお)いて・何なる経にか十法界の開会(かいえ)等・草木成仏之有りや。天台妙楽の無非中道・惑耳驚心(わくに・きょうしん)の釈は慈覚智証の理同事勝の異見に之を類す可く候や。已に天台等は三国伝灯の人師・普賢開発の聖師・天真発明の権者(ごんじゃ)なり。豈経論になき事を偽わり釈し給はんや。彼れ彼れの経経に何なる一大事か之有るや。此の経には二十の大事あり。就中(なかんずく)五百塵点顕本の寿量に何なる事を説き給へるとか・人人は思召(おぼしめ)し候。我等が如き凡夫・無始已来・生死の苦底に沈輪して仏道の彼岸を夢にも知らざりし衆生界を、無作本覚の三身と成し、実に一念三千の極理を説くなんど・浅深を立つべし。
但し公場ならば然るべし。私に問註すべからず。慥(たしか)に此の法門は、汝等が如き者は人毎に・座毎に・日毎に談ずべくんば三世諸仏の御罰を蒙るべきなり。日蓮己証なりと常に申せし是なり。大日経に之有りや、浄土三部経の成仏已来・凡歴(ぼんりゃく)十劫之に類す可きや・なんど前後の文、乱れず一一に会す可し。其の後又云うべし。諸人は推量も候へ、是くの如くいみじき御経にて候へばこそ多宝遠来して証誠を加え、分身来集して三仏の御舌を梵天に付け、不虚妄とは訇(のの)しらせ給いしか。地涌千界出現して濁悪末代の当世に別付属の妙法蓮華経を一閻浮提の一切衆生に取り次ぎ給うべき仏の勅使なれば、八十万億の諸大菩薩をば・止(やみね)善男子と嫌はせ給しか等云云。又彼の邪宗の者どもの習いとして強(あながち)に証文を尋ぬる事之有り。涌出品並びに文句の九・記の九の前三後三の釈を出だすべし。但日蓮が門家の大事之に如かず。 又諸宗の人・大論の自法愛染の文を問難とせば、大論の立所(たてば)を尋ねて後・執権謗実の過罪をば竜樹は存知無く候いけるか。「余経は秘密に非ず法華是れ秘密なり」と仰せられ、譬如(ひにょ)大薬師と此の経計り成仏の種子と定めて・又悔い返して「自法愛染・不免堕悪道」と仰せられ候べきか。さで有らば仏語には「正直捨方便・不受余経一偈」なんど法華経の実語には大いに違背せり。よもさにては候はじ。若し末法の当世・時剋相応せる法華経を謗じたる弘法・曇鸞なんどを付法蔵の論師・釈尊の御記文にわたらせ給う菩薩なれば鑒知(かんち)してや記せられたる論文なるらん。覚束無(おぼつかな)しなんど・あざむく(嘲弄)べし。御辺や不免堕悪道の末学なるらん、痛敷(いたわしく)候、未来無数劫の人数にてや有るらんと立つ可し。 又律宗の良観が云く法光寺殿へ訴状を奉る其の状に云く、忍性年来(としごろ)歎いて云く、当世日蓮法師と云える者・世に在り。斎戒は堕獄す云云。所詮何なる経論に之有りや是一。又云く、当世日本国上下誰か念仏せざらん。念仏は無間の業と云云。是れ何なる経文ぞや。慥かなる証文を日蓮房に対して之を聞かん是二。総じて是体(これてい)の爾前得道の有無の法門六箇条云云。 然るに推知するに、極楽寺良観が已前の如く日蓮に相値うて宗論有る可きの由・訇(ののし)る事之有らば、目安を上げて極楽寺に対して申すべし。某の師にて候者は去ぬる文永八年に御勘気を蒙り・佐州へ遷され給うて後、同じき文永十一年正月の比(ころ)・御免許を蒙り鎌倉に帰る。其の後平金吾に対して様様の次第申し含ませ給いて甲斐の国の深山に閉篭(とじこも)らせ給いて後は、何(いか)なる主上・女院の御意たりと云えども・山の内を出で諸宗の学者に法門あるべからざる由・仰せ候。 随つて其の弟子に若輩のものにて候へども、師の日蓮の法門・九牛が一毛をも学び及ばず候といへども、法華経に付いて不審有りと仰せらるる人わたらせ給はば・存じ候なんど云つて、其の後は随問而答(ずいもん・にとう)の法門申す可し。 又前六箇条一一の難門、兼兼申せしが如く日蓮が弟子等は臆病にては叶うべからず。彼れ彼れの経経と法華経と勝劣・浅深、成仏・不成仏を判ぜん時、爾前迹門の釈尊なりとも物の数ならず。何に況んや其の以下の等覚の菩薩をや、まして権宗の者どもをや。法華経と申す大梵王の位にて民とも下(くだ)し、鬼畜なんどと下しても其の過(あやまち)有らんやと意を得て宗論すべし。 又彼の律宗の者どもが破戒なる事・山川の頽(くず)るるよりも尚無戒なり。成仏までは思ひもよらず・人天の生を受くべしや。妙楽大師云く「若し一戒を持てば人中に生ずることを得。若し一戒を破れば還って三途に堕す」と。其の外・斎法経・正法念経等の制法・阿含経等の大小乗経の斎法斎戒、今程の律宗忍性が一党・誰か一戒をも持てる。還堕三途(げんださんず)は疑ひ無し。若しは無間地獄にや落ちんずらん不便なんど立てて・宝塔品の持戒行者と是を訇(のの)しるべし。 其の後・良(やや)有つて此の法華経の本門の肝心・妙法蓮華経は三世の諸仏の万行万善の功徳を集めて五字と為せり。此の五字の内に豈万戒の功徳を納めざらんや。但し此の具足の妙戒は一度持つて後・行者破らんとすれど破れず、是を金剛宝器戒とや申しけんなんど立つ可し。三世の諸仏は此の戒を持つて法身・報身・応身なんど・何れも無始無終の仏に成らせ給ふ。此れを「諸教の中に於て之を秘して伝へず」とは天台大師は書き給へり。 今末法当世の有智・無智・在家・出家・上下・万人、此の妙法蓮華経を持つて説の如く修行せんに豈仏果を得ざらんや。さてこそ決定無有疑(けつじょう・むうぎ)とは滅後濁悪の法華経の行者を定判(じょうはん)せさせ給へり。三仏の定判に漏れたる権宗の人人は決定(けつじょう)して無間なるべし。是くの如くいみじき戒なれば、爾前・迹門の諸戒は今一分の功徳なし。功徳無からんに一日の斎戒も無用なり。 但(ただし)此の本門の戒を弘まらせ給はんには必ず前代未聞の大瑞あるべし。所謂正嘉の地動・文永の長星是なるべし。抑・当世の人人何(いずれ)の宗宗にか本門の本尊・戒壇等を弘通せる。仏滅後二千二百二十余年に一人も候はず。日本人王・三十代・欽明天皇の御宇に仏法渡つて今に七百余年、前代未聞の大法・此の国に流布して月氏・漢土・一閻浮提の内の一切衆生・仏に成(な)るべき事こそ・有り難けれ・有り難けれ。 又已前の重、末法には教行証の三つ倶に備われり。例せば正法の如し等云云。已に地涌の大菩薩・上行出でさせ給いぬ、結要(けっちょう)の大法亦弘まらせ給うべし。日本・漢土・万国の一切衆生は金輪聖王の出現の先兆の優曇華(うどんげ)に値えるなるべし。在世四十二年並びに法華経の迹門十四品に之を秘して説かせ給はざりし大法、本門正宗に至つて説き顕し給うのみ。 良観房が義に云く、彼の良観が・日蓮遠国へ下向と聞く時は諸人に向つて急ぎ急ぎ鎌倉へ上れかし、為に宗論を遂げて諸人の不審を晴さんなんど自讃毀他する由・其の聞え候。此等も戒法にてや有らん、強ちに尋ぬ可し。 又日蓮鎌倉に罷上(まかりのぼ)る時は門戸を閉じて内へ入るべからずと之を制法し、或は風気(かぜけ)なんど虚病(けびょう)して罷(まか)り過ぎぬ。某(それがし)は日蓮に非ず、其の弟子にて候まま、少し言(ことば)のなまり、法門の才覚は乱れがはしくとも、律宗国賊・替るべからずと云うべし。 公場にして理運の法門申し候へばとて雑言(ぞうごん)・強言(ごうげん)・自讃気(げ)なる体・人目に見すべからず、浅猨(あさま)しき事なるべし。弥(いよいよ)身口意を調え、謹んで主人に向うべし主人に向うべし。 三月二十一日 日 蓮 花 押 三位阿闍梨御房へ之を遣はす [教行証御書 本文] 完
by johsei1129
| 2019-10-29 22:00
| 重要法門(十大部除く)
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