2019年 09月 03日
【法華経題目抄(ほけきょうだいもくしょう】 ■出筆時期:文永三年正月六日(西暦1266年)四十五歳御作
■出筆場所:千葉・清澄寺 ■出筆の経緯:いまだ念仏への執着から離れられない在家の女性信徒に対し、大海の一滴に一切の河の水が収まっているように、法華経六万九千三百八十四文字全てが「妙法蓮華経」に収まっていると説き、さらに「釈迦五十年の説法のうち、「四十二年の経経には女人・仏になるべからずと説きたまひしなり。今法華経にして女人仏に成る」と説き、妙法蓮華経と唱えることで女人も仏になれると、諭すために書き記した書となっている。 ■ご真筆:京都本国時他に分散されて保存。時代写本:日目上人書写 大石寺所蔵。 [法華経題目抄 本文] その一 根本大師門人 日蓮 撰 南無妙法蓮華経 問うて云く、法華経の意をもしらず只南無妙法蓮華経と計り五字七字に限りて一日に一遍・一月乃至一年・十年・一期生(いちごしょう)の間に只一遍なんど唱えても軽重の悪に引かれずして四悪趣におもむかず、ついに不退の位にいたるべしや。 答えて云く、しかるべきなり。 問うて云く、火火といへども手にとらざればやけず。水水といへども口にのまざれば水のほしさもやまず。只南無妙法蓮華経と題目計りを唱うとも、義趣をさとらずば悪趣をまぬかれん事・いかがあるべかるらん。 答えて云く、師子の筋を琴の絃として一度奏すれば余の絃悉くきれ、梅子(うめのみ)のす(酢)き声(な)をきけば・口につた(唾)まりうるをう。世間の不思議すら是くの如し、況や法華経の不思議をや。小乗の四諦の名計りをさやづる鸚鵡(おうむ)なを天に生ず、三帰計りを持つ人・大魚の難をまぬかる。何に況や法華経の題目は八万聖教の肝心・一切諸仏の眼目なり。汝等此れを唱えて四悪趣をはなるべからずと疑うか。正直捨方便の法華経には「信を以て入ることを得」と云い、雙林(そうりん)最後の涅槃経には「是の菩提の因は復無量なりと雖も・若し信心を説けば則ち已に摂尽(しょうじん)す」等云云。 夫れ仏道に入る根本は信をもて本とす。五十二位の中には十信を本とす。十信の位には信心初めなり。たとひさとりなけれども信心あらん者は鈍根も正見の者なり。たとひさとりあるとも信心なき者は誹謗・闡提(せんだい)の者なり。善星(ぜんしょう)比丘は二百五十戒を持ち・四禅定を得・十二部経を諳(そら)にせし者。提婆達多(だいばだった)は六万八万の宝蔵をおぼへ十八変を現ぜしかども此等は有解無信の者、今に阿鼻大城にありと聞く。迦葉・舎利弗等は無解有信の者なり。仏に授記を蒙(こうむ)りて華光如来・光明如来といはれき。仏・説いて云く「疑(うたがい)を生じて信ぜざらん者は則ち当に悪道に堕つべし」等云云。此等は有解無信の者を説き給う。 而るに今の代に世間の学者の云く、只信心計りにて解する心なく南無妙法蓮華経と唱うる計りにて・争(いかで)か悪趣をまぬかるべき等云云。此の人人は経文の如くならば阿鼻大城まぬかれがたし。さればさせる解(さと)りなくとも南無妙法蓮華経と唱うるならば悪道をまぬかるべし。譬えば蓮華は日に随つて回る、蓮(はちす)に心なし。芭蕉(ばしょう)は雷によりて増長す、此の草に耳なし。我等は蓮華と芭蕉との如く法華経の題目は日輪と雷との如し。 犀(さい)の生角(いきつの)を身に帯して水に入りぬれば水・五尺身に近づかず。栴檀(せんだん)の一葉開きぬれば四十由旬の伊蘭を変ず。我等が悪業は伊蘭と水との如く、法華経の題目は犀(さい)の生角と栴檀の一葉との如し。 金剛は堅固にして一切の物に破られず。されども羊の角と亀の甲に破らる。尼倶類樹(にくるじゅ)は大鳥にも枝おれざれども、かのまつげ(睫)に巣くうせうれう(鷦鷯)鳥にやぶらる。我等が悪業は金剛の如く尼倶類樹の如し、法華経の題目は羊の角のごとく・せうれう鳥の如し。 琥珀(こはく)は塵をとり・磁石は鉄をすう、我等が悪業は塵と鉄との如く、法華経の題目は琥珀と磁石との如し。 かくをもひて常に南無妙法蓮華経と唱うべし。法華経の第一の巻に云く「無量無数劫にも是の法を聞かんこと亦難し」第五の巻に云く「是の法華経は無量の国中に於て乃至名字をも聞くことを得可からず」等云云。 法華経の御名を聞く事は・をぼろげにもありがたき事なり。されば須仙多仏(しゅせんだぶつ)・多宝仏は世にいでさせ給いたりしかども法華経の御名をだにも説き給わず。釈迦如来は法華経のために世にいでさせ給いたりしかども四十二年が間は名をひして・かたりいださせ給わず。仏の御年七十二と申せし時、はじめて妙法蓮華経と・となえいでさせ給いたりき。しかりといえども摩訶尸那(まかしな)日本の辺国の者は御名をも・きかざりき。一千余年すぎて三百五十余年に及びてこそ纔(わずか)に御名計りをば聞きたりしか。 さればこの経に値いたてまつる事をば三千年に一度華さく優曇華(うどんげ)・無量無辺劫に一度値(あ)うなる一眼の亀にもたとへたり。大地の上に針を立てて大梵天王宮より芥子(けし)をなぐるに針のさきに芥子の・つらぬかれたるよりも法華経の題目に値う事はかたし。此の須弥山に針を立ててかの須弥山より大風のつよく吹く日・いとをわたさんにいたりて、はりの穴に・いとのさきの・いりたらんよりも法華経の題目に値い奉る事かたし。 さればこの経の題目を・となえさせ給はんには・をぼしめすべし。生盲(いきめくら)の始めて眼をあきて父母等を・みんよりも・うれしく、強き・かたきに・とられたる者の・ゆるされて妻子を見るよりも・めづらしとをぼすべし。 問うて云く、題目計りを唱うる証文これありや。 答えて云く、妙法華経の第八に云く「法華の名を受持せん者・福量る可からず」正法華経に云く「若し此の経を聞いて名号を宣持せば徳量る可からず」添品(てんぽん)法華経に云く「法華の名を受持せん者・福量る可からず」等云云。 此等の文は題目計りを唱うる福・計るべからずとみへぬ。一部・八巻・二十八品を受持・読誦し、随喜・護持等するは広なり。方便品寿量品等を受持し乃至護持するは略なり。但一四句偈乃至題目計りを唱えとなうる者を護持するは要なり。広略要の中には題目は要の内なり。 問うて云く、妙法蓮華経の五字にはいくばくの功徳をかおさめたるや。 答えて云く、大海は衆流を納めたり。大地は有情・非情を持てり。如意宝珠は万財を雨(ふら)し、梵天は三界を領す、妙法蓮華経の五字また是くの如し。一切の九界の衆生並に仏界を納む。十界を納むれば亦十界の依報の国土を収む。先ず妙法蓮華経の五字に一切の法を納むる事をいはば、経の一字は諸経の中の王なり・一切の群経を納む。 仏・世に出でさせ給いて五十余年の間・八万聖教を説きをかせ給いき。仏は人寿・百歳の時・壬申の歳・二月十五日の夜半に御入滅あり。其の後四月八日より七月十五日に至るまで一夏九旬の間・一千人の阿羅漢・結集堂にあつまりて一切経をかきをかせ給いき。其の後・正法一千年の間は五天竺に一切経ひろまらせ給いしかども震旦(しんたん)国には渡らず。像法に入つて一十五年と申せしに後漢の孝明皇帝・永平十年丁卯(ひのとう)の歳、仏経始めて渡つて唐の玄宗皇帝・開元十八年庚午(かのえうま)の歳に至るまで渡れる訳者・一百七十六人、持ち来る経律論一千七十六部・五千四十八巻・四百八十帙(ちつ)、是れ皆法華経の経の一字の眷属の修多羅(しゅたら)なり。 [法華経題目抄 本文] その二に続く
by johsei1129
| 2019-09-03 21:29
| 重要法門(十大部除く)
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