2019年 10月 30日
【乗明聖人御返事】 ■出筆時期:建治三年(1277)四月十二日 五十六歳御作。 ■出筆場所:身延山中 草庵にて。 ■出筆の経緯:本抄は、大田乗明夫妻が青鳧(せいふ・銭)二結を供養されたことへの返書となっております。 大聖人は金珠女(こんじゅにょ)と金師の夫(迦葉)が、金銭一文を金箔にし仏像に貼ったことで九十一劫も金色の身と為った故事を引いて、「今の乗明法師妙日並びに妻女は銅銭二千枚を法華経に供養す。彼(迦葉)は仏(像)なり、此れ(乗明)は経(ご本尊)なり、経は師なり・仏は弟子なり。涅槃経に云く「諸仏の師とする所は所謂法なり乃至是の故に諸仏恭敬(くぎょう)供養す」と記され、諸仏は経を師として仏になった、貴方は経そのものに供養するので「勝れたる経を供養する施主・一生に仏位に入らざらんや」と讃えられておられます。 尚、本抄は比較的短いお手紙ですが、重要な点があります。一つは乗明が幕府問註所(現在の最高裁判所)の役人で漢文の素養があり、大聖人は乗明への消息は全て漢文で認められておられ、本書も同様に漢文で記されておられます。もう一つは宛名が乗明聖人となっていることです。これは信徒に対する尊称としては極めて異例であります。大聖人は弘安五年十月十三日に滅度される半年前に、本門の戒壇建立のご遺命を記された[三大秘法禀承事]を大田乗明に対して書き遺しことでもわかるように、如何に大聖人の法門への理解が深いかと乗明を高く評価していたかが伺われます。 その「三大秘法禀承事」の文末では、こう記されておられます。「今日蓮が時に感じて此の法門広宣流布するなり。予・年来(としごろ)己心に秘すと雖も・此の法門を書き付て留め置ずんば・門家の遺弟等・定めて無慈悲の讒言を加う可し。其の後は何と悔ゆとも叶うまじきと存ずる間、貴辺に対し書き遺し候。一見の後、秘して他見有る可からず、口外も詮無し。法華経を諸仏出世の一大事と説かせ給いて候は、此の三大秘法を含めたる経にて渡らせ給えばなり。秘す可し・秘す可し」と。 ■ご真筆:中山法華経寺所蔵(重要文化財)。 [真筆本文:本文緑字箇所] 未來光明如來是也 今乘明法師 妙日并妻女銅 錢二千枚供養 法花經 彼佛也 此經也 經師也 佛弟子也 涅槃經云 諸佛所師所謂法也 乃至是故諸佛恭敬 供養 法華經第七云 若復有人以七寶滿三 [乗明聖人御返事 本文] 相州の鎌倉より青鳧二結(せいふ・ふたゆい)・甲州身延の嶺に送り遣わされ候い了んぬ。 昔・金珠女(こんじゅにょ)は金銭一文を木像の薄(はく)と為し、九十一劫・金色の身と為りき。其の夫(おとこ)の金師(こんし)は今の迦葉、未来の光明如来・是なり。 今の乗明法師妙日・並びに妻女は、銅銭二千枚を法華経に供養す。 彼は仏なり・此れは経なり、経は師なり・仏は弟子なり。涅槃経に云く「諸仏の師とする所は所謂法なり・乃至是の故に諸仏・恭敬供養す」と。 法華経の第七に云く「若し復人有つて七宝を以て三千大千世界に満てて、仏及び大菩薩・辟支仏(ひゃくしぶつ)・阿羅漢を供養せし。是の人の得る所の功徳は此の法華経の乃至一四句偈を受持する其の福の最も多きに如かず」 夫れ劣る仏を供養する・尚九十一劫に金色の身と為りぬ。勝れたる経を供養する施主・一生に仏位に入らざらんや。
但真言・禅宗・念仏者等の謗法の供養を除き去るべし。譬えば修羅を崇重しながら・帝釈を帰敬するが如きのみ。恐恐謹言。 卯月十二日 日 蓮 花押 乗明聖人御返事 【妙法蓮華経 薬王菩薩本事品 第二十三】 若復有人 以七宝満 三千大千世界 供養於仏 及大菩薩 辟支仏 阿羅漢 是人所得功徳 不如受持 此法華経 乃至一四句偈 其福最多 [和訳] 若し復た人有りて、七宝を以て三千大千世界(宇宙)に満たし 仏及び大菩薩、辟支仏(縁覚)、阿羅漢(声聞)を供養する 是の人が得る所の功徳は、此の法華経の 乃至、一四句偈をも受持する、其の福の最も多きには及ばないのである。
by johsei1129
| 2019-10-30 06:51
| 大田乗明・尼御前
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