人気ブログランキング | 話題のタグを見る

日蓮大聖人『御書』解説

nichirengs.exblog.jp
ブログトップ
2019年 10月 21日

富木常忍の九十歳になる母の大聖人への思いを称えた書【富木殿御返事】

【富木殿御返事】
■出筆時期:文永十二年(1275年)二月七日 五十四歳御作
■出筆場所:身延山中の草庵にて。
■出筆の経緯:本抄は富木常忍が九十歳になる母が作った夏に向けての帷(かたびら:裏地がない一重の上着)を供養されたことへの返書となっております。
 大聖人は釈尊と比丘(男の僧)との袈裟に纏わる話を引いて、生みの母の恩を報ずることの大切さを示されておられます。
 文末では「帷(かたびら)は一なれども十方の諸天此れをしり給うべし。露を大海によせ・土を大地に加るがごとし。生生に失せじ・世世にくちざらむかし」と記し、この常忍の母の手による帷は決して朽ちることはないと常忍の母の大聖人への思いを讃えられておられます。
■ご真筆:中山法華経寺所蔵。

[富木殿御返事 本文]

 帷(かたびら)一領給(た)び畢んぬ。
 夫れ仏弟子の中・比丘一人はんべり。飢饉の世に仏の御時・事か(欠)けて候いければ、比丘・袈裟をう(売)て其のあたいを仏に奉る。仏・其の由来を問い給いければ、しかじかとありのままに申しけり。仏云はく「袈裟はこれ三世の諸仏解脱の法衣なり。このあたひをば我ほうじがたし」と辞退しましまししかば、此の比丘申すは「この袈裟あたひをばいかんがせん」と申しければ、仏の云はく「汝・悲母有りや不や」答えて云く「有り」仏云はく「此の袈裟をば汝が母に供養すべし」此の比丘・仏に云はく「仏は此れ三界の中の第一の特尊なり、一切衆生の眼目にてをはす。設い十方世界を覆う衣なりとも、大地にしく袈裟なりとも・能く報じ給うべし。我が母は無智なる事・牛のごとし、羊よりもはかなし。いかでか袈裟の信施をほうぜん」と云云。  
 仏返して告げて云く「汝が身をば誰か生みしぞや、汝が母これを生む。此の袈裟の恩、報じぬべし」等云云。

 此れは又齢(よわい)九旬にいたれる悲母の愛子にこれをまいらせさせ給える。我と両眼をしぼり身命を尽くせり。我が子の身として此の帷(かたびら)の恩かたしと・をぼしてつかわせるか。日蓮又ほうじがたし。しかれども又返すべきにあらず。此の帷をきて日天の御前にして此の子細を申し上げば、定めて釈梵・諸天しろしめすべし。

 帷は一なれども十方の諸天此れをしり給うべし。露を大海によせ、土を大地に加ふるがごとし。生生に失せじ、世世にく(朽)ちざらむかし、恐恐謹言。

二月七日             日 蓮  花押


富木常忍の九十歳になる母の大聖人への思いを称えた書【富木殿御返事】_f0301354_19552560.jpg[室町時代の大帷  by東京国立博物館]


by johsei1129 | 2019-10-21 18:25 | 富木常忍・尼御前 | Trackback | Comments(0)


<< 法華経第七に云く「此の経は則ち...      法華経を持つ女人は一切の女人に... >>