問う、他流の上人皆香衣を著す、是れ平僧に簡異せんが為の故なり。中正論第二十に云わく「吾が宗の上人の色衣は木蘭色を用う、而るに此の木蘭の皮に香気有り、彼の色に准じて之を染む故に亦香衣と名づくるなり、皆此の衣を著す、是れ平僧に簡異する為なり」云云。最も其の謂われ有り、何ぞ之を許さざるや。
答う、是れ将に平僧に簡異せんとして却って他宗の住持に濫す、曷ぞ之を許す可けんや。応に知るべし、畠山が白旗には而も藍の皮有り、吾が家の平僧には則ち袖裏無し、今古異なりと雖も倶に濫るる所無きなり。
問う、他流皆直綴を著す、当家何ぞ之を許さざるや。
答う、凡そ直綴とは唐代新呉の百丈山恵海大智禅師、褊衫・裙子の上下を連ね綴じて始めて直綴と名づく。故に知んぬ、只是れ法服を縫合す、既に法服を許さず、曷ぞ直綴を許す可けんや、況や復由来は謗法の家より出づ、那ぞ之を用う可けんや。
問う、若し爾らば横裳は慈覚より始まる、何ぞ亦之を用うるや。
答う、実には是れ伝教大師の相伝なり。健抄四・五十二に云わく「天台宗の裳付衣は慈覚大師より始まるなり、根本は是れ伝教大師の御相伝なり」云云。何ぞ直綴の来由に同じからんや。故に開山云わく云云。
註解
○簡異 比べ分けること。
○畠山 鎌倉時代の武将、畠山重忠のこと。勇猛で知られる。彼の旗は先祖代々白色だったが、主君の源頼朝も白色だったため藍の皮をつけて区別したという。
○横裳 素絹の衣のこと。素は粗い意味。
僧侶の黒衣は謗法、必ず地獄に堕すにつづく
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