三に料簡とは、 問う、唯当流に於て法服七条等を許さざる其の謂われ如何。
答う、凡そ法服とは上を褊袗と曰い、下を裙子と曰う。抑も仏弟子は本腰に裳を巻き、左の肩に僧祇支を著け以て三衣の襯にするなり。僧祇支とは覆膊衣と名づけ、亦掩腋衣と名づく。是れ左の肩を覆い、及び右の腋を掩う故なり。阿難端正なり、人見て皆悦ぶ、仏覆肩衣を著せしむ、此れ右肩を覆うなり。而るに後魏の宮人、僧の一肘を袒にするを見て以て善しと為さず、便ち之を縫合して以て褊袗と名づく。会して云わく「袗未だ袖端有らざるなり」云云。其の後唐の代に大智禅師亦頚袖を加え仍ち褊袗と名づく、是れ本に従って立つる名なり。裙子と言うは旧に涅槃僧と云う、本帯襷無し、其の将に服せんとする時、衣を集めて襞と為し、束帯二条を以いるなり。今は則ち襞を畳み、帯を付けるなり。今褊衫・裙子を取って通じて法服と名づくるなり。此くの如き法服七条九条は乃ち是れ上代高位の法衣にして、末法下位の着する所に非ず、何ぞ之を許す可けんや。孝経に曰わく「先王の法服に非ずんば敢えて服せず」云云。註に云わく「法服は法度の服なり、先王は礼を制して章服を異にし、以て品秩を分かつ、卿に卿の服有り、大夫に大夫の服有り、若し非法の服を服せば僣なり」云云。又云わく「賤にして貴服を服する、之を僭上と謂う、僭上を不忠と為す」云云。外典尚然り、況や内典をや。
註解
○三衣 「さんね」と読む。袈裟のこと。インドにおける仏弟子は腰に裳を巻きつけ、左の肩から右の脇には僧祇支という布をかけ、その上に三衣(袈裟)をつけた。したがって僧祇支は肌着の役割があった。
○襯 肌着のこと。
○袖端 袖の端のこと。それまでの法服は袖がなかった。
○頸袖 襟と袖のこと。頸は襟の意味。襟と袖をくわえて、名前は従来どおり褊衫としたという意。
○帯襷 帯のこと。襷は「たすき」の意味。
○法度 法律で定められたもの。
○章服 紋章などのある服。これにより身分の違いを区分けして秩序をたもった。
○僭 下の人が分限を超え、上になぞらいおごること。
○僭上 上位の者であると驕ること。聖者であると驕る者を僭聖という。
富士の三衣は華美を許さず につづく
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