2015年 01月 28日
[唱法華題目抄 本文]その三 問うて云く、始めに智者の御物語とて申しつるは、所詮後世の事の疑わしき故に善悪を申して承らんためなり。彼の義等は恐ろしき事にあるにこそ侍るなれ。一文不通の我等が如くなる者は、いかにしてか法華経に信をとり候べき。又心ねをば何様に思い定め侍らん。 答えて云く、此の身の申す事をも一定とおぼしめさるまじきにや。其の故はかやうに申すも天魔波旬・悪鬼等の身に入つて人の善き法門を破りやすらんとおぼしめされ候はん。一切は賢きが智者にて侍るにや。 問うて云く、若しかやうに疑い候はば我身は愚者にて侍り。万(よろず)の智者の御語をば疑い・さて信ずる方も無くして空しく一期(いちご)過ごし侍るべきにや。 答えて云く、仏の遺言に依法不依人と説かせ給いて候へば、経の如くに説かざるをば、何にいみじき人なりとも御信用あるべからず候か。又依了義経・不依不了義経と説かれて候へば、愚癡の身にして一代聖教の前後・浅深を弁えざらん程は了義経に付かせ給い候へ。了義経・不了義経も多く候。阿含小乗経は不了義経・華厳・方等・般若・浄土の観経等は了義経。又四十余年の諸経を法華経に対すれば不了義経・法華経は了義経。涅槃経を法華経に対すれば法華経は了義経・涅槃経は不了義経。大日経を法華経に対すれば大日経は不了義経・法華経は了義経なり。故に四十余年の諸経並に涅槃経を打ち捨てさせ給いて法華経を師匠と御憑み候へ。 法華経をば国王・父母・日月・大海・須弥山・天地の如くおぼしめせ。諸経をば関白・大臣・公卿・乃至万民・衆星・江河・諸山・草木等の如くおぼしめすべし。我等が身は末代造悪の愚者・鈍者・非法器の者、国王は臣下よりも人をたすくる人、父母は他人よりも子をあはれむ者、日月は衆星より暗(やみ)を照らす者、法華経は機に叶わずんば・況や余経は助け難しとおぼしめせ。又釈迦如来と阿弥陀如来・薬師如来・多宝仏・観音・勢至・普賢・文殊等の一切の諸仏・菩薩は我等が慈悲の父母、此の仏菩薩の衆生を教化する慈悲の極理は唯法華経にのみとどまれりとおぼしめせ。諸経は悪人・愚者・鈍者・女人・根欠等の者を救ふ秘術をば未だ説き顕わさずとおぼしめせ。 法華経の一切経に勝れ候故は但此の事に侍り。而るを当世の学者・法華経をば一切経に勝れたりと讃めて、而も末代の機に叶わずと申すを皆信ずる事、豈謗法の人に侍らずや。 只一口におぼしめし切らせ給い候へ。所詮法華経の文字を破り・さきなんどせんには法華経の心やぶるべからず。又世間の悪業に対して云いうとむるとも、人人用ゆべからず。只相似たる権経の義理を以て云いうとむるにこそ、人はたぼらかさるれとおぼしめすべし。 問うて云く、或智者の申され候しは四十余年の諸経と八箇年の法華経とは成仏の方こそ爾前は難行道・法華経は易行道にて候へ。往生の方にては同事にして易行道に侍り。法華経を書き読みても十方の浄土・阿弥陀仏の国へも生るべし。観経等の諸経に付いて弥陀の名号を唱えん人も往生を遂ぐべし。只機縁の有無に随つて何をも諍ふべからず。但し弥陀の名号は人ごとに行じ易しと思いて日本国中に行じつけたる事なれば・法華経等の余行よりも易きにこそと申されしは如何。 答えて云く、仰せの法門はさも侍るらん。又世間の人も多くは道理と思いたりげに侍り。但し身には此の義に不審あり。其の故は前に申せしが如く末代の凡夫は智者と云うともたのみなし。世こぞりて上代の智者には及ぶべからざるが故に愚者と申すともいやしむべからず。経論の証文顕然ならんには抑(そもそも)無量義経は法華経を説くが為の序分なり。然るに始め寂滅道場より今の常在霊山の無量義経に至るまで其の年月日数を委(くわし)く計(かぞ)へ挙げれば四十余年なり。其の間の所説の経を挙るに華厳・阿含・方等・般若なり。所談の法門は三乗・五乗・所習の法門なり。修行の時節を定むるには宣説菩薩・歴劫修行と云ひ、随自意・随他意を分つには是を随他意と宣べ、四十余年の諸経と八箇年の所説との語・同じく、義・替れる事を定めるには、文辞一と雖ど義各(おのおの)異るととけり。成仏の方は別にして往生の方は一つなるべしともおぼえず。華厳・方等・般若・究竟(くきょう)最上の大乗経・頓悟・漸悟の法門・皆未顕真実と説かれたり。此の大部の諸経すら未顕真実なり。何に況や浄土の三部経等の往生極楽ばかり未顕真実の内にもれんや。其の上・経経ばかりを出すのみにあらず既に年月日数を出すをや。然れば華厳・方等・般若等の弥陀往生・已に未顕真実なる事疑い無し。観経の弥陀往生に限つて豈多留難故の内に入らざらんや。 若し随自意の法華経の往生極楽を随他意の観経の往生極楽に同じて易行道と定めて、而も易行の中に取つても猶観経の念仏往生は易行なりと之を立てられば権実雑乱の失・大謗法たる上、一滴の水・漸漸に流れて大海となり・一塵積つて須弥山となるが如く、漸く権経の人も実経にすすまず・実経の人も権経におち、権経の人次第に国中に充満せば法華経随喜の心も留り、国中に王なきが如く・人の神(たましい)を失えるが如く、法華・真言の諸の山寺荒れて諸天善神・竜神等・一切の聖人、国を捨てて去らば・悪鬼便りを得て乱れ入り、悪風吹いて五穀も成(みの)らしめず、疫病流行して人民をや亡さんずらん。 此の七八年が前までは諸行は永く往生すべからず、善導和尚の千中無一と定めさせ給いたる上、選択には諸行を抛てよ・行ずる者は群賊と見えたりなんど放語を申し立てしが、又此の四五年の後は選択集の如く人を勧めん者は謗法の罪によつて師檀共に無間地獄に堕つべしと経に見えたりと申す法門出来したりげに有りしを、始めは念仏者こぞりて不思議の思いをなす上、念仏を申す者・無間地獄に堕つべしと申す悪人外道ありなんどののしり候しが、念仏者・無間地獄に堕つべしと申す語に智慧つきて各選択集を委く披見(ひけん)する程に、げにも謗法の書とや見なしけん、千中無一の悪義を留めて諸行往生の由を念仏者毎に之を立つ。然りと雖も唯口にのみゆるして心の中は猶本(なおもと)の千中無一の思いなり。在家の愚人は内心の謗法なるをばしらずして諸行往生の口にばかされて、念仏者は法華経をば謗ぜざりけるを・法華経を謗ずる由を聖道門の人の申されしは僻事(ひがごと)なりと思へるにや。一向諸行は千中無一と申す人よりも謗法の心はまさりて候なり。失なき由を人に知らせて而も念仏計りを亦弘めんとたばかるなり。偏に天魔の計りごとなり。 問うて云く、天台宗の中の人の立つる事あり。天台大師、爾前と法華と相対して爾前を嫌うに二義あり。 一には約部。四十余年の部と法華経の部と相対して爾前は麤(そ)なり・法華は妙なりと之を立つ。 二には約教。教に麤妙を立て華厳・方等・般若等の円頓速疾の法門をば妙と歎じ、華厳・方等・般若等の三乗歴別(れきべつ)の修行の法門をば前三教と名づけて麤なりと嫌へり。円頓速疾の方をば嫌わず法華経に同じて一味の法門とせりと申すは如何。 答えて云く、此の事は不審にもする事侍るらん、然る可しとをぼゆ。天台妙楽より已来今に論有る事に侍り。天台の三大部六十巻総じて五大部の章疏の中にも約教の時は爾前の円を嫌う文無し。只約部の時ばかり爾前の円を押ふさねて嫌へり。 日本に二義あり、園城寺には智証大師の釈より起つて爾前の円を嫌ふと云い、山門には嫌はずと云う。互に文釈あり倶に料簡あり、然れども今に事ゆかず。 但し予が流の義には不審晴れておぼえ候。其の故は天台大師四教を立て給うに四の筋目あり。一には爾前の経に四教を立つ。二には法華経と爾前と相対して爾前の円を法華の円に同じて前三教を嫌う事あり。三には爾前の円をば別教に摂して前三教と嫌ひ、法華の円をば純円と立つ。四には爾前の円をば法華に同ずれども但法華経の二妙の中の相待妙に同じて絶待妙には同ぜず。此の四の道理を相対して六十巻をかんがうれば狐疑(こぎ)の冰(こおり)解けたり。一一の証文は且つは秘し・且つは繁き故に之を載せず。 又法華経の本門にしては爾前の円と迹門の円とを嫌う事不審なき者なり。爾前の円をば別教に摂して約教の時は「前三を麤(そ)と為し、後一を妙と為す」と云うなり。此の時は爾前の円は無量義経の歴劫修行の内に入りぬ。又伝教大師の註釈の中に爾前の八教を挙げて四十余年未顕真実の内に入れ、或は前三教をば迂回(うえ)と立て、爾前の円をば直道と云い、無量義経をば大直道と云う。委細に見る可し。 [唱法華題目抄 本文]その四に続く。
by johsei1129
| 2015-01-28 20:07
| 御書十大部(五大部除く)
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