2015年 01月 13日
[光日房御書 本文] その二 但し本国にいたりて今一度、父母のはか(墓)をもみんと・をもへども、にしき(錦)をきて故郷へはかへれといふ事は内外のをきてなり。させる面目もなくして本国へいたりなば、不孝の者にてやあらんずらん。これほどの・かた(難)かりし事だにもやぶれて、かまくらへかへり入る身なれば、又にしきをきるへんもやあらんずらん。其の時、父母のはかをも・みよかしと、ふかくをもうゆへに・いまに生国へはいたらねども、さすがこひしくて、吹く風・立つくも(雲)までも東のかたと申せば、庵(いおり)をいでて身にふれ、庭に立ちてみるなり。かかる事なれば故郷の人は設い心よせにおもはぬ物なれども、我が国の人といへば・なつかしくて・はんべるところに、此の御ふみを給びて心もあらずして・いそぎ・いそぎ・ひらきてみ候へば、をととしの六月の八日に、いや(弥)四郎に・をく(後)れてと・かかれたり。御ふみも・ひらかざりつるまでは・うれしくてありつるが、今・此のことばをよみてこそ・なにしに・かくいそぎ・ひらきけん。うらしま(浦島)が子のはこ(箱)なれや、あけて・くやしきものかな。 我が国の事はう(憂)く・つらくあたりし人のすへまでも・をろかならず・をもうに、ことさら此の人は形も常の人にはすぎてみへ、うちをもひたるけしきも・かたく(頑固)なにもなしと見えしかども、さすが法華経のみざ(御座)なれば・しらぬ人人あまたありしかば言もかけずありしに、経はてさせ給いて皆人も立ちかへる。此の人も立ちかへりしが使ひを入れて申せしは、安房の国のあまつ(天津)と申すところの者にて候が、をさなくより御心ざし・をもひまいらせて候上、母にて候人も・をろかならず申し、なれなれしき申し事にて候へども・ひそかに申すべき事の候。さきざき・まひりて次第になれまいらせてこそ申し入るべきに候へども、ゆみやとる人に・みやづかひて・ひま候はぬ上、事きうになり候いぬる上は・をそれをかへりみず申すと、こまごまときこえしかば、なにとなく生国の人なる上、そのあたり(辺)の事は・はばかるべきにあらずとて入れたてまつりて、こまごまと・こしかた(過方)・ゆくすへ・かたりて、のちには世間無常なり、いつと申す事をしらず。其の上・武士に身をまかせたる身なり。又ちかく申しかけられて候事・のがれがたし。さるにては後生こそ・をそろしく候へ。たすけさせ給へと・きこへしかば、経文をひいて申しきかす。彼のなげき申せしは、父はさてをき候いぬ、やもめ(寡婦)にて候・はわ(母)をさしをきて、前に立ち候はん事こそ不孝にをぼへ候へ。もしやの事候ならば、御弟子に申しつたへてたび候へと、ねんごろにあつら(誂)へ候いしが、そのたびは事ゆへなく候へけれども、後にむなしくなる事のいできたりて候いけるにや。 人間に生をうけたる人、上下につけて・うれへなき人はなけれども、時にあたり・人人にしたがひて・なげき・しなじななり。譬へば病のならひは何(いずれ)の病も重くなりぬれば、是にすぎたる病なしと・をもうがごとし。主のわかれ、をやのわかれ、夫妻のわかれ、いづれかおろかなるべき。なれども主は又他の主もありぬべし。夫妻は又かはりぬれば、心をやすむる事もありなん。をやこのわかれこそ月日のへだつるままに・いよいよ・なげきふかかりぬべくみへ候へ。をやこのわかれにも、をやはゆきて子はとどまるは、同じ無常なれども・ことはり(理)にもや。をひたるはわは・とどまりて、わきき子のさきにたつ、なさけなき事なれば神も仏もうらめしや。いかなれば、をやに子をかへさせ給いて・さきにはたてさせ給はず、とどめをかせ給いて・なげかさせ給うらんと心うし。 心なき畜生すら子のわかれ・しのびがたし。竹林精舎の金鳥は・かひこ(卵)のために身をやき、鹿野苑(ろくやおん)の鹿は胎内の子ををしみて王の前にまいれり。いかにいわうや心あらん人にをいてをや。されば王陵が母は子のためになつき(頭脳)をくだき、神尭(しんぎょう)皇帝の后は胎内の太子の御ために腹をやぶらせ給いき。此等ををもひつづけさせ給はんには、火にも入り・頭をもわりて我が子の形をみるべきならば・をしからずとこそ・おぼすらめと、をもひやられて・なみだもとどまらず。
by johsei1129
| 2015-01-13 14:37
| 弟子・信徒その他への消息
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