2019年 12月 01日
【三大秘法禀承事(ぼんじょうのこと】 ■出筆時期:弘安五年四月八日(西暦1282年) 六十一歳御作 与大田金吾 ■出筆場所:身延山中 草庵 ■出筆の経緯:大聖人が御入滅される約半年前に、鎌倉武士で強信徒の大田金吾に宛てられた書。大聖人滅後、残された弟子・信徒への遺言と言っても良い御書である。法華経第七神力品に説かれている「如来の一切の所有の法、如来の一切の自在の神力、如来の一切の秘要の蔵、如来の一切の甚深の事」の実体である三大秘法『本門の本尊、本門の戒壇、本門の題目』は、二千余年の当初(そのかみ)・地涌(じゆ)千界の上首として日蓮慥(たし)かに教主大覚世尊より口決(くけつ)相承せしなり、と明らかにしている。 ■ご真筆: 現存していない。古写本:日時上人筆(大石寺 所蔵)、日向上人筆(身延山久遠寺 所蔵)、日親上人筆(京都本法寺 所蔵) [三大秘法禀承事 本文] 夫れ法華経の第七神力品に云く「要を以て之を言はば・如来の一切の所有の法、如来の一切の自在の神力、如来の一切の秘要の蔵、如来の一切の甚深の事(じ)、皆此の経に於て宣示顕説す」等云云。釈に云く「経中の要説、要は四事に在り」等云云。 問う、所説の要言の法とは何物ぞや。 答て云く、夫れ釈尊初成道より四味三教乃至法華経の広開三顕一の席を立ちて、略開近顕遠(りゃくかいごん・けんのん)を説かせ給いし涌出品まで秘せさせ給いし処の、実相証得の当初(そのかみ)・修行し給う処の寿量品の本尊と戒壇と題目の五字なり。 教主釈尊・此の秘法をば三世に隠れ無き普賢文殊等にも譲り給はず。況んや其の以下をや。されば此の秘法を説かせ給いし儀式は四味三教並びに法華経の迹門十四品に異なりき。所居(しょご)の土は寂光本有(ほんぬ)の国土なり、能居(のうご)の教主は本有無作(ほんぬ・むさ)の三身なり。所化以て同体なり。かかる砌(みぎり)なれば久遠称揚(くおん・しょうよう)の本眷属・上行等の四菩薩を寂光の大地の底よりはるばると召し出だして付属し給う。道暹(どうせん)律師云く「法・是れ久成(くじょう)の法なるに由る故に久成の人に付す」等云云。 問て云く、其の所属の法門・仏の滅後に於ては何れの時に弘通し給う可きか。 答て云く、経の第七薬王品に云く「後の五百歳の中に閻浮提に広宣流布して断絶せしむること無けん」等云云。謹んで経文を拝見し奉るに、仏の滅後・正像二千年過ぎて第五の五百歳、闘諍堅固・白法隠没(おんもつ)の時云云。 問て云く、夫れ諸仏の慈悲は天月の如し。機縁の水澄めば利生の影を普く万機の水に移し給ふべき処に、正像末の三時の中に末法に限ると説き給わば、教主釈尊の慈悲に於て偏頗(へんぱ)あるに似たり如何。 答う、諸仏の和光・利物(りもつ)の月影は九法界の闇を照すと雖も、謗法一闡提の濁水には影を移さず。正法一千年の機の前には唯小乗・権大乗相叶へり。像法一千年には法華経の迹門・機感相応せり。末法の始めの五百年には法華経の本門、前後十三品を置きて只寿量品の一品を弘通すべき時なり。機法相応(きほう・そうおう)せり。
今此の本門寿量の一品は像法の後の五百歳・機尚(なお)堪えず。況んや始めの五百年をや。何(いか)に況んや正法の機は迹門・尚日浅し、増して本門をや。末法に入て爾前迹門は全く出離生死の法にあらず、但専ら本門寿量の一品に限りて出離生死の要法なり。是を以て思うに・諸仏の化導(けどう)に於て全く偏頗(へんぱ)無し等云云、 問う、仏の滅後・正像末の三時に於て本化(ほんげ)・迹化(しゃっけ)の各各の付属分明(ふんみょう)なり。但寿量の一品に限りて末法濁悪の衆生の為なりといへる経文未だ分明ならず。慥(たしか)に経の現文を聞かんと欲す如何。 答う、汝・強(あなが)ちに之を問う。聞いて後・堅く信を取る可きなり。所謂寿量品に云く「是の好き良薬を今留めて此に在(お)く。汝取って服す可し。差(いえ)じと憂うる勿(なか)れ」等云云。 問て云く、寿量品・専ら末法悪世に限る経文顕然(けんねん)なる上は私に難勢(なんせい)を加う可らず。然りと雖も三大秘法、其の体如何。 答て云く、予が己心の大事・之に如(し)かず。汝が志・無二なれば少し之を云わん。 寿量品に建立する所の本尊は五百塵点の当初(そのかみ)より以来(このかた)、此土有縁深厚・本有無作(ほんぬ・むさ)三身の教主釈尊是れなり。寿量品に云く「如来秘密・神通之力」等云云。疏(しょ)の九に云く「一身即三身なるを名づけて秘と為し、三身即一身なるを名づけて密と為す。又昔より説かざる所を名づけて秘と為し、唯仏のみ自ら知るを名づけて密と為す。仏三世に於て等しく三身有り。諸教の中に於て・之を秘して伝えず」等云云。 題目とは二の意有り。所謂正像と末法となり。正法には天親菩薩・竜樹菩薩・題目を唱えさせ給いしかども、自行ばかりにしてさて止(やみ)ぬ。像法には南岳・天台等亦南無妙法蓮華経と唱え給いて自行の為にして広く他の為に説かず。是れ理行の題目なり。末法に入て今日蓮が唱ふる所の題目は前代に異なり、自行化他に亘(わた)りて南無妙法蓮華経なり。名体宗用教の五重玄の五字なり。戒壇とは王法仏法に冥じ・仏法王法に合して、王臣一同に本門の三秘密の法を持ちて有徳王(うとくおう)・覚徳比丘の其の乃往(むかし)を・末法濁悪の未来に移さん時、勅宣並びに御教書(みきょうしょ)を申し下して霊山浄土に似たらん最勝の地を尋ねて戒壇を建立す可き者か。時を待つ可きのみ。事(じ)の戒法と申すは是なり。三国並びに一閻浮提の人・懺悔(ざんげ)滅罪の戒法のみならず、大梵天王・帝釈等も来下(らいげ)して蹋(ふみ)給うべき戒壇なり。 此の戒法立ちて後、延暦寺の戒壇は迹門の理戒なれば益あるまじき処に、叡山に座主始まつて第三・第四の慈覚・智証、存の外に本師伝教・義真に背きて理同事勝の狂言(おうげん)を本として我が山の戒法をあなづり・戯論(けろん)とわらいし故に、存(ぞん)の外に延暦寺の戒・清浄無染(むぜん)の中道の妙戒なりしが、徒(いたずら)に土泥(どでい)となりぬる事、云うても余りあり・歎きても何かはせん。彼の摩黎(まり)山の瓦礫(がりゃく)の土となり、栴檀林(せんだんりん)の荊棘(いばら)となるにも過ぎたるなるべし。夫れ一代聖教の邪正偏円を弁えたらん学者の人をして・今の延暦寺の戒壇を蹋(ふ)ましむべきや。此の法門は義理を案じて義をつまびらかにせよ。 此の三大秘法は二千余年の当初(そのかみ)、地涌千界の上首として日蓮・慥(たし)かに教主大覚世尊より口決相承せしなり。今日蓮が所行は霊鷲山の禀承(ぼんじょう)に芥爾(けに)計りの相違なき、色も替らぬ寿量品の事の三大事なり。 問う、一念三千の正(まさ)しき証文如何。 答う、次に出し申す可し。此に於て二種有り。方便品に云く「諸法実相・所謂諸法・如是相・乃至欲令衆生・開仏知見」等云云。底下(ていげ)の凡夫・理性所具の一念三千か。 寿量品に云く「然我実成仏已来(ねんがじつ・じょうぶついらい)・無量無辺」等云云。大覚世尊・久遠実成(くおんじつじょう)の当初(そのかみ)証得の一念三千なり。 今、日蓮が時に感じて此の法門・広宣流布するなり。予・年来(よ・としごろ)己心に秘すと雖も、此の法門を書き付て留め置かずんば門家の遺弟(ゆいてい)等・定めて無慈悲の讒言(ざんげん)を加う可し。其の後は何と悔ゆとも叶うまじきと存ずる間、貴辺に対し書き送り候。 一見の後・秘して他見有る可からず。口外も詮無し。法華経を諸仏出世の一大事と説かせ給いて候は、此の三大秘法を含めたる経にて渡らせ給えばなり。秘す可し・秘す可し。 弘安五年卯月(うづき)八日 日 蓮 花 押
by johsei1129
| 2019-12-01 15:15
| 血脈・相伝・講義
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